❖人生最後がかんじんだ


行者は、千日回峰行を満行すると『大行満大阿闍梨』となり、京都御所への土足参内も許される。


その後、満行した行者自らの発願で行う大護摩供がある。


これは別名火あぶり地獄ともいわれ、その前の百日間『五穀断ち』といって、米、麦、粟、豆、稗という『五穀断ち手文』に従った五穀と、茄子、柿、西瓜、梅、桃などの果物、さらに海苔、昆布、ひじきの海草類の食物を断つ。


大護摩供は全国の信者から寄せられた護摩木を一つずつ声を出して読み上げ、それを七日間て焚くもので、護摩木にはさまざまな願いが書かれている。


通常は十万枚だか、阿闍梨さんの場合は十五万枚を超えたという。


体を休め、眠ることは許されているが、横臥することはできない。


不眠、不臥、断食、断水で挑んだ阿闍梨さんは八日目にその使命を終えた。


白い法衣から露出した阿闍梨さんの額と頬は赤く焼けただれ、唇は渇いて裂け、手は黒く変色してしまったという。


阿闍梨さんの千日回峰行、最後の瞬間である。


阿闍梨さんにとって、それは身をもって行ったけじめのつけ方だった。



比叡山・千日回峰行 酒井雄哉画賛集 画 寺田みのる