☆天台寺での奇譚、、



(酒井雄哉大阿闍梨)


岩手県二戸市にある、名刹「天台寺」。この寺は神亀五年(七二八年)行基開基と伝わる。昭和五十年、天台宗東北大本山中尊寺貫主・今東光大僧正が特命住職が再興、二年後遷化。その後、昭和六十二年に瀬戸内寂聴師が第七三世住職として晋山、寂聴師は、今大僧正の法弟子にあたり、私財を投入して寺の復興に注力し、在職中に天台寺を東北有数の有名寺院に押し上げた。



(八葉山天台寺 岩手県二戸市)


東北巡礼中の酒井阿闍梨は、この天台寺に立ち寄っている。この時の奇譚を、後に寂聴師は「寂聴 仏教塾」で述べている。



(三十年続いた、天台寺の青空法話)



祈る心」の不思議


 「祈ったら願いが叶えられるのなら、こんな苦労はしない」と、考えるでしょう。私自身、出家するまでは、いや、出家してからも、なかなか素直には信じられませんでした。


 でも一心不乱に心からお祈りすれば、ほんとうに奇跡が起こることがあるということを何度も経験しました。理屈や科学ではどうにも説明できない不思議なことが起きるのだということを何度も経験しました。


 比叡山で千日回峰行をなさった酒井雄哉大阿闍梨という方がおられます。


―――省略―――


 いろんな不思議な経験をしましたが、ここでは天台寺で起こったことをお話します。


月に一回、私が天台寺で法話をするたびにお菓子を持ってきてくださる二戸の町のお菓子屋さんがいます。その奥さんが癌になって手術することになったのだけれども、治るかどうか分からない。


 お菓子屋のご主人が私の所へに来られて「女房なんて今までは、いて当たり前、働いてくれて当たり前と思っていました。でも、あの女房がもし死んだら、私はもうどうしていいか分からない。自分も生きていけない」と男泣きに泣かれます。

 

本当にお気の毒なことだけれども、私にはなにもしてあげられません。そこで酒井大阿闍梨にお願いしてみたらどうだろうと思ったのです。


 ちょうど、このときたまたま酒井大阿闍梨が東北を行脚なさっていて、私の天台寺に立ち寄ってくださることになっていました。阿闍梨さんは二度も千日回峰行をなさっておられる立派な方だから、その方に加持をしてもらったらいいかもしらないと思ったのです。


 加持というのは、お祈りということですが、修行を積んだ行者さんに祈ってもらい、病気を治してもらったり、願い事を仏にお願いしてもらったりすることも加持と言います。お菓子屋さんの奥さんは三人のお医者さんに診てもらっていました。三人のお医者が三人とも、手術をしても治るかどうか分からないと言っていました。


 それで私は「手術がうまく行くように阿闍梨さんにお祈りしていただきなさい」と勧めました。奥さん自身が阿闍梨さんに加持していただくのが一番いいのだけれども、入院中の病人だからそれはできない。そこで、奥さんの寝間着を洗って持ってきてもらいました。


 酒井大阿闍梨が天台寺にお越しになったとき、そのお菓子屋さんは朝一番に天台寺に来て、奥さんの寝間着をもって長い石段で酒井大阿闍梨の到着を待ちました。石段には同じように多くのお迎えする人たちがドンドン集まって並んで座っています。

 

 あのお菓子屋さんが頭の上に捧げた寝間着に、丁寧にお加持をしてくださいました。


奇跡」は起こった


 それから、約一か月~~~~


あの加持のあと、奥さんはすぐ手術ということになりました。手術する前に、もう一度だけ癌の様子を調べようとお医者さんが検査したところ、あったはずの癌がどこにもないというんです。「そんなバカな話はない。三人のお医者さんに診てもらって、三人とも癌の診断だったのだ」といったのですが、どこにも」見あたらないから手術はできないという返事です。


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つくずく「奇跡は起こるんだなぁ」と感動しました。

 

先ほど、観音さまにお祈りをするときには、心から、自分を無にしてお願いしないとだめだというお話をしましたね。自分を無にしたときに、はじめて観音様と波長が合って、チャンネルが開かれる。この場合もそうだと思います。


 お菓子屋さんのご主人は、自分の奥さんを心から思射、自分はどうでもいいから奥さんを治してほしいと祈った。そして、その切なる思いを酒井大阿闍梨という法力を持った方が受け止めて、熱心に祈ってくださった。このお二人の祈りの気持ちが合致したからこそ、奇跡は起こったんでしょうね。


 観音さまにお祈りをしたら病気が治ったという、いいわゆる「霊験譚」は、昔からたくさんあります。正直言って、この出来事があるまで、私はそうした話はみんなつくり話か誇張だと思っていたんです。


 だけれども、そういうことが本当に起きるんですね。

とても大切なことを教えられ出来事でした。



酒井阿闍梨は、巡礼の際に、寂聴師に千日回峰行の時に、関孫六から贈られた、「降魔の剣」を譲り、生涯大切にしたという。



(平成十七年 天台寺退任式 寂聴師の二人前は、小林隆彰大僧正)


(酒井雄哉大阿闍梨千日回峰行 京都大廻りでお加持をを待つ 瀬戸内寂聴師)


次回、今日の自分は、今日でおしまい、、


続く、