(story) 花火 | 軽井沢で美穂の時つむぎ

(story) 花火

あの人は覚えているだろうか。。。
今日はこの街のお祭りだってことを。。
前に一度だけ話したことあったんだ。。この街のお祭りの話を。。

「夜店がね、たくさん出るんだ。。海ほうずきに綿菓子、坂道をころころ転がるおもちゃ、知ってる??あれが面白そうだったんだけど、高くって、中々買ってもらえなくって。。でも、欲しかったの。。ちょっと大きくなってから買ったら、どうって事無かったな。。ハッカパイプもお気に入りだったぁ~♪
8時になると打ち上げ花火が上がるの。。
あのね、8時の花火を見て帰るのが子供のお祭り、8時の花火が終わってからが大人のお祭りなの。。
私はどうしても見たい花火のポイントがあるんだぁ~街境に、水道管が埋まってる土手があるんだけど、そこに寝ッ転がって花火を見てみたいの。。
街境までは20分位なんだ。。
あそこに寝ッ転がって花火、見たいんだけど、まだ実現してないの。。」

あの人はいつものように、ふんふん、と頷いているだけ。。
お喋りするのはいつも私。。
だから、覚えているかは半信半疑。。
私達も、来年、高校卒業。。あの人と一緒に花火をみたい。。

覚えているかな。。。。

湯上りに自分で仕立てた浴衣を着たの。。
目立たないように薄く紅をさして。。

「あら、どしたの?誰かとまちあわせ?」

母の何気ない一言が胸を刺す。。

「ううん、そういうわけじゃないけど。。。」

帯だって、去年までの子供っぽいのとは違う。。
おばあちゃんがこの浴衣用に買ってくれたちょっと大人っぽい奴。。
とっても気に入ってる。。

髪の毛は上げたほうがいいかな。。
ん。。。うなじの癖ッ毛がなんだかな。。
どうして私は南沙織みたいにさらさらヘアーに生まれなかったんだろう。。
夏の湿気に益々くるくるとなる癖ッ毛が子供っぽい。。やだな、もお。。

「自分の街にはそんなに大きなお祭りはなかったかな。。子供の頃はあそこに住んでいなかったからわかんないんだけどね」

「あの水道管の土手、まっすぐに行くと、あなたが子供時代に住んでいた街に続くのよね。。昔、ずっと歩いていった事あったんだ」

「あは。。あの駅のとこの?ああ・・そうなんだ」

「あなたの育った街では平らだけど、私の街境にある水道管の土手は2階の屋根の上っ位になるんじゃないかな。。暗いし、何も他に高いものないから、あそこで花火を見たら、きっととっても綺麗だと思うんだ。。。
虹とか花火って空に映し出される誰にでも見られる綺麗なものだけど、一人占め、してみたいって思わない?」

「ん・・・どだろな・・・・」

「あんっ!もういいぃ~~~」

「あは。。そか?」

「いや、良くないけど。。。でも、いいよ。。。見たいんだ。。。花火。。」

あれは私の遠隔的なお誘われ文句だったんだけど、きっとあの人には通じてないな。。まっ!そう言うところが好きなんだけど。。
素朴で変に気が回らなくって、洒落っ気なんかちっともなくって。。
でも、時折見せてくれるはにかんだような笑顔が飛び切りいいんだ。。

もうすぐ7時半になる。。
所在なげに浴衣着ている私を母は見て見ぬ振りをしてくれている。。
だから、部屋から出られない。。
暑くって益々襟足の髪の毛がくるくるになってるし。。
あそこまで20分、慣れぬ下駄を履いていたらもうちょっとかかるかも。。
約束しているわけじゃないし、もうちょっとしたら、妹でも連れてお祭りにだけ行ったらいいね。。

「こんばんはぁ~」

あっ!来た!!でも、出てかない。。待ってたみたいじゃない、だめだめ、知らんぷり、するんだもんね。。

「お友達がみえたわよぉ~」と母の声。。

「はぁ~~い!」

だめだ、嬉しくって顔が自然にほころんじゃう。。

「いらっしゃい」

「花火、見に行かないか?おかあさんにはちゃんと言ったよ」

「うん、いいよ、いこいこ」

母に、挨拶しようとしたら、にこにこして、目配せしてくれた。。ママ、ありがと・・

「さぁ~ここからはきみが道案内だ。。大丈夫かぁ?」

「平気よ、子供の頃から何度も行っているんですもの、まかしといて」

私たちは線路際の道を土手を目指して歩いた。。
前からお祭りに向かう子供連れの家族にすれ違う。。
どうしてこういう時に中学の同級生と会わないのだろう、ちょっと自慢なのにな。。

「もうちょっと早く歩かないと間に合わないかな。。でも、歩きにくい。。」

「いいじゃないか、ちょっと位、それよりきみが浴衣着ていて驚いた」

「どうせ、馬子にも衣装って言いたいんでしょお~」

「そんなことはない、とっても似合うよ、嬉しかった。。」

頬が熱くなった。。そんなこと言われたら余計に暑くなるじゃないの。。

「女の人はもっと着物を着るべきだよ、俺は好きだよ、着物。。」

「じゃ、今度はそうね、初詣に着ようかしら?今年は受験でそれどころじゃない?それとも、願かけに行こうかぁ~」

さりげなくまた誘ってしまった。。でも、あの人は例によって口元をほんの少し動かすだけで、同意をすることはない。。いつものことだ。。

「あと3分だわ。。でも、もう少し。。この道の、ほら。。見えてきた、あそこ!間に合いそう~」

あ・・あの人が、え?私の手を。。あ。。。。

「ちょっと急げるかな。。どうせなら間に合いたいじゃないか。。」

まっすぐに前を見たまま私の手を握ってどんどん歩いてく。。足の指がちょっと痛いけど、そんなこと、構わない。。初めて手、繋いだんだもん。。
花火より嬉しいかもしれない。。早足と緊張で汗、かいてきた。。

「ついた。。あの一番高いところまで行こう。。」

「うん。。どんな風に見えるかな。。」

私たちは土手と下との距離が一番ありそうな場所を目指した。。
歩けるように轍が出来ている場所は狭くて自然と寄り添うようになる。。
私はあの人のちょっと後ろを忙しなく小股になりながら歩いた。。
土手の一番高い所についた時に遠くでカチ、と音がした。。

「始まる!ほら・・あ・・・・・」

カチ、ドォ~~~ン!パァ~~~~~ン!パラパラパラ・・・・

景気付けにのっけから5尺玉が炸裂した。。
私たちの前の大きな夜空は黒いカンバスとなって額縁いっぱいになるほどの花火の花がはじけた。。

「綺麗~~~~わぁ~~すごいっ!すごいっ!!」

目の前に広がる夜空に咲く大輪の花が、今、二人のためだけに咲いてくれている。

「良かったね。。願いが叶って。。」

「うん、一人じゃ怖くて来れなかった。。ありがと、一緒に来てくれて」

あの人はやっぱり口元をほんの少し動かすだけ。。

「綺麗だよ。。綺麗だ。。」

「え・・・」

「花火もだけど。。」

今でも思い出す。。あの夏の花火と唇のあたたかさ。。。

DELICIOUS ! Afternoon tea & Night-cap ↑他にも自作の読み物をご用意しています。興味のある方はGo!