恋したくなるお題(身分差の恋のお題) | 気ままに吐露トロ

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あれこれ好きなことを、覚え書き。

01. その立場としての笑み

時は、昔々と始められる物語の頃。
そして和洋問わずでよくある、身分差のある恋物語。
僕は、とある女性に惹かれていた。
父母は、大きな城とも言えるような邸に仕える運転手と女中で。
住まいは同じ敷地内にある離れを与えられていた。
雇い主には同じ年頃の女の子がいて、子ども同士の気安さからか、いつのまにか禁止する親の目を盗んでは一緒に遊んでいた。
余人がいるという世間を知る以前には、幼いながらもぼんやりとした意味しかわからぬ結婚の約束もした。
それが叶わぬものだと知らされたのは、越えられぬ「身分」があると教えられたから。
学び舎というものに通うようになり、他の同年代の者と知り合い、世界は否応なく広がってゆく。
そしていつしか全開だった笑顔は、その立場としての貼り付けたような笑みに変わっていった。
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02. 障子一枚の隔たり(障子の無い時代でお使いでしたら、障子を 「御簾」 に変更してお使い下さい。)

仔犬や仔猫のように、一緒になって遊んでいた時間はいつのまにか遠去かり、選んで生まれたわけではないのに身分や立場というものに遮られるようになった。
仕える身に生まれてしまえば、払拭するには全てを捨てるしかない。
それでも捨てたくないものの中に仕える相手がいるのであれば、どれほど幸せな未来が望めずとも受け入れるしかないのだ。
そこにいると、衣擦れの音さえ阻むことのない薄布一枚の隔たりが、届きそうで届かないその距離を埋められないものだと嘲笑う。
それでも。
一定以上に近づくことは出来ずとも、側に居られるのであれば、その存在さえも感じられないところにいるよりはマシなのだと、己に言い聞かせて。
名を呼ばれる。
事を言い付かる。
成した後にいただける言葉は、簡略だからこそ幼少の頃の無邪気さに似て。
また、希望を持ってしまうのだ。
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03. 仕える者の特権

朝な夕な、高貴な方々の命は多岐にわたり、その時々の気分によって求められる対応も違ってくるから、細心の注意を常に強いられる。
あれをしろ、これをやっておけ、そういう単純なものならむしろ楽な方で、認知していない誰それが来るからその人に合う準備をしておけと言われても、合うか否かは分からないまでも歓待の準備をするしかない。
今のところ人として出来た相手ばかりだったのか、用意したものに文句はつけられた様子はないが、それ以前に用意を命じたものたちは関心がないのではないかと思う。
ならば。
それを逆手に取り、不必要なものを排除するのに利用すればいい。
使用人は、誰が上にいようと、命令された事を着実にこなすことに精一杯で、だから、それが誰であろうと関係がないのだ。
強いて言えば、無理を強いない良心的な人であればというだけであろう。
仕える者の特権は、少ない。
けれど、全くないわけではない。
要は、命じられた数少ない言葉を、いかに曲解していくか、なのだ。
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04. 命令範囲外の命令

本来、仕える相手は同性と決められている。
それは万がひとつにも間違いが起きてはいけないからなのは明白だ。
それなのに、僕に命令をするのはここでは、いずれ誰よりも高貴な身分になるはずの女性である。
間違いが起こせぬほどの年齢差ならばともかく、むしろ間違いを起こせと誘惑されそうなほどに近い、それ。
さらには、調理や清掃、着付けから外出時の付き添いまで担当のものが違うはずなのに、僕は全てをひとりでこなしている。
大人たちに、身分が違うのだからもう一緒に遊んではいけないと言われて以来、遊んでいた時間が身の回りの世話へと変わったのだ。
それは、余人には許されない、命令範囲外の命令の所為。
他の者に、そう命令すればいいのだと、僕から申し出た結果だ。
あれをしろ、これをやっておけ、そういうものをそれぞれに命令するのではなく、僕一人にすればいい、と。
為来りとか前例なんてうっちゃっておけばいい。
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05. 目を閉じて あとは従うだけ

早朝、朝食の準備をし、起床を促し、身形を整えさせ、食事をさせる。
本日の予定を確認し、車の用意をし、送迎する。
待ち時間は大抵、教養を高めるために読書に当てる。
命じられていた買い物もこの間に済ませるようにし、共に過ごせる時間を可能な限り減らさないよう努める。
ありがとうと、うれしいと、一緒に遊んでいた頃と同じ笑顔が見られるのであれば、容易いことだ。
用事を済ませて帰宅した後も、入浴を含めた就寝の用意を手伝い、自身を殺した1日が終わる。
…はずもなく。
「早く、早く」
幼い頃に急かされたそのままそっくり同じ無邪気な口調で、かけ布団がめくられる。
拒否権はなく、あっても使うつもりはないから、結局溜め息を押し殺し、目を閉じてあとは従うだけなのだ。
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06. 身分差を埋める闇

初めて彼女に出会ったのは、彼女が生まれて数時間後だった。
両親が使える主人に赤ん坊が生まれ、仕事で出産に立ち会えなかった主人を運転手である父が急ぎ病院へ送り届けるのに、手がいるだろうと女中である母が付き添うので、幼子をひとりにできないと一緒に連れて行かれたのだ。
他に子の居ない邸で、一緒に過ごすようになったのは自然の成り行きだっただろう。
遊び疲れて一緒に庭で昼寝をすることは当たり前で、ひとりの夜は怖いと袖を掴まれ、結局手を繋いで寝ることが普通になって。
だからこれは、男女の営みなどではなく、幼い頃からの習慣なのだ。
頬を寄せ合い、抱きしめ合い、ささやき声で内緒話をし、抑えた笑いで額を合わせる。
彼女が生まれてから、それはずっと続いたふたりだけの空間。
これまでも、これからも、立ちはだかる身分差を埋める闇だけが、唯一素の自分たちでいられる場所なのだ。
確かめるように交わす、小さなキスだけが、約束の証。
互いの背中に回した両手だけが、信じられるもの。
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07. 縁談の噂

遠くないいつか、そんなことがあるだろうと予想はしていた。
それでも、実際に直面すれば、うろたえてしまう自分に微苦笑を漏らす。
それなりに名声のある家の娘だ、純粋に人として惹かれるだけではなく、多分に政略的な思惑も含んだものも多いのだろう。
年齢的にはまだ急ぐ必要はなく、その縁談はあくまで噂でしかないものの、いずれ現実となるのは明白だ。
年端もいかぬ頃にすでに身分が違うと離れさせられた自分には、相手となる資格が無いと断言されたも同然で。
ならば、あとはいかにして付いてゆくかを許可してもらうか、考えるしかない。
同性ならば身の回りの世話付きという手もあるが、異性ではそれは許されない。
とはいえ、それ以外では近い位置に居られる立場はない。
どうするか。
…狙って、みるか?
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08. 付け文に託す恋の唄(付け文(つけぶみ) ひそかに送る恋文。つまりラブレター。艶書(えんしょ/えんじょ)・懸想文 (けそうぶみ) ともいいます。)

まず簡単なのは、相手から断るように仕向けること。
どんな理由をつけてでも、ついでに他のものにも、この人はやめておいた方がいいなんて思わせられればいいが、それは同時にたとえ噂であっても大切な人の品位や人格を貶めることになりかねないから危険だ。
ならば逆に、こちらから相手の粗を探して嫌だと申し出てもいいが、飽きるほどに湧いてくるだろう話にいちいち対応するのにもかなりの量力が必要だろう。
何より、己のわがままにより彼女付きの使用人をひとりでさせてもらっているからこそ、雇い主にそれ以上の無理は頼めない。
ならば、もしも。
無邪気なままの彼女がそれでも自分と同じ気持ちを抱いてくれているのだとしたら。
知り尽くしている彼女の好みの薄い模様の入った紙を選び、一文字ずつ丁寧に認める。
生まれ、出会い、共に過ごす時間と日々を重ねるうちに培って来た想いを。
それを細く折りたたみ、彼女が一等好きな花の枝に結び添えて。
付け文に託す恋の唄を受け入れてくれるのであれば、きっと…。
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09. ただ一つ 対等であること

呼び出されたのは、いつもの部屋ではなく、僕がよく息抜きに訪れる庭の一角。
1日の全ての仕事を無事に済ませた後、就寝までのわずかな間ではあるがゆっくりと過ごすその時間。
たいていは彼女の私室か、家族やそれに近いものだけが使う私的な居間を利用しており、庭とはいえ外に出るということは、花見や夕涼みなど特別な事由な時だけに限られていたから、少々驚いてはいたのだ。
しかも、そういう時に彼女と訪う公的な場所ではなく、勝手に僕だけの憩いの場として使用していたところであったから。
そのことを話題にしたこともなく、なぜ彼女が知り得たのかもわからないまま、それでも迷いなく脚は向かう。
幽けき月光が、木々の隙間から光線を差し込ませ、それを受ける彼女があまりにも儚く優美で、言葉はもちろん、わずかな動きでさえもその機能を失う。
息を飲んだ、その気配を感じたのだろう、ゆっくりと僕に向けられた視線は、いつもの幼いほどのものではなく、いつのまにか大人になっていたそれだった。
「お手紙、落手いたしました」
静かに、ゆっくりと発せられる一言ずつが、胸の内に雪のように降り積もってゆく。
「お気持ちは嬉しゅうございますけれど、私が望むのはただ一つ、あなたさまと対等であることです」
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10. あともう少しだけの高望み

ご主人様にお嬢様がお生まれになったよと連れて行かれ、その姿を見たときからずっと、そばにいるべきなのだと、言葉にはしないまでもそう思っていた。
一緒にいることが当たり前であった時間が奪われても、必死にそれに対抗する方法を考え、互いの手が離れないようにしっかりと繋ぎあってきた。
使用人という立場である僕だけがそう勝手に望んでいたわけではないということは、次期当主になるであろう彼女が僕に示す小さな態度から信じてはいたが、それでも諦めなければいけない「いつか」が来るかもしれないと覚悟はしていたけれど。
「ずっと幼い頃、私たちは今のような身分の差などなく、いつも一緒でしたね」
僕の両手を包み込むように握り、僕の両目をじっと見つめる。
「いつからか、あなたは私が入れない壁を作ってしまったけれど、私はずっと、その頃に戻りたいと思っていました」
送った付け文から、もしかして彼女も初めて、使用人となって引いた態度をとるようになった僕の心の内を知ることが出来たのだろうか。
婚姻などは望まなくても、どんな時でもそばにいて欲しいと思ってくれていると、あともう少しだけの高望みが顔を出す。
「お父さまの許可は得ました。あなたはずっと、私のものですよ?」
満面の笑顔はずっと惹かれていたものではあるし、賜った言葉は至上の幸福ではあるけれど、今少し詳細を述べる術を教えておくべきだったかとズレたところで後悔をすることになり、やはり敵わぬと微苦笑で幕、になるのだろうな。