「ならさ、イッキ」
もっとその先のトキヤを、知りたくねぇ?
『悪魔の囁きだ』
ぼそりと音也の耳元で囁かれたレンの台詞を、うっかり聞き取ってしまった友千香は、そう思った。
もともとレンは、女性を喜ばす言葉を、それはもう大判振る舞いで口にするが、けれどそこに内実が伴っていないことは、本人はもちろん群がる『子羊ちゃん』たちもちゃんと認識している。
だからこその軽口だと暗黙の了解もあり、恋愛禁止な学園内でも大目に見てもらえているのだろう。
けれど。
純真素朴な音也と、真面目が服を着ているようなトキヤとで、そう唆してもいいものなのか。
端から見ていても、『トキヤ大好き!』と見えない尻尾をブンブン振っている音也だけれど、それは友人としてであり、恋愛感情などはない、はずなのだ。
「その先って?」
「そりゃもう、めくるめく甘~い愛の世界」
興味津々に訊ねる音也と唇の端を気障ったらしくあげてほくそ笑むレンの、ぼそぼそと続けられる会話に友千香はこめかみが痛くなる気がした。
何よりそもそも同性だろう!?と、そこに問題を抱かないヤツらは、やっぱり常識が欠落しているんだと思う。
「何のお話をされているんですか?」
次第に音量が大きくなるふたりの会話に、春歌が気付いたらしく、小首をかしげて会話に加わる。
「お子さまなイッキに、大人なレンさまからの、恋愛指南」
だからぺらっと言うなそんなこと!
という友千香の心の叫びは届かず、
「イッキが大好きなイッチーと、素敵な時間を過ごすための計画を練っているところなのさ」
きれいにウィンクをキメたレンに、音也が尊敬の眼差しを向ける。
真剣かどうかはともかく、恋愛の達人であるレンのアドバイスは、音也にとっては至高のものになるのだろう。
けれど、真面目であるが故に真っ直ぐな気持ちには逆らえないトキヤに対し、音也にだけアドバイスを授けるというのは、あまりにもアンフェアなのではないかとちょっと心配になる。
そうは思いつつ、それでも隣で『それは素敵なプランですね』なんて大きな瞳をキラキラさせている春歌を見てしまえば、結果がどうなろうと春歌の望む結末を望んでしまうのが、友千香の弱みでもあるのだが。
「あんまり春歌を、泣かすなよ?」
学業的にも心理的にも聡いレンは、友千香のそれだけの言葉で全てを理解したらしい。
「ちゃんと幸せに、するさ」
誰を、とは言わない。
でも出来れば、みんながなるといい。
大人な会話が深くなる前に、だから友千香は春歌を促して席を立ったのだった。