처음(初めて) 08 | 気ままに吐露トロ

気ままに吐露トロ

あれこれ好きなことを、覚え書き。

F4と一括りにされていても、内情は結構バラバラだ。
面倒な恋愛を拒み割り切った付き合いをと人妻にしか食指を動かさないウビン、そしてその時さえよければと一時的な快楽だけを求め不特定の女性と付き合うイジョン。
どちらも、育った家庭環境から深入りすることを恐れていたのは、当人たち以外には誰も知らないはずの秘密だった。
それなのに、本来ならば蔑まれて当然の態度に、それでも「賛成は出来ないけど、それなりに理由があるんだろうなってことは分かるから」と、詳細を知らないのに理解を示してくれた人は、今までならば相手にする間もなく排除していただろう、生活水準の全く違う人で。
「ただ、私の友だちだけは手を出さないでね」
そうきっぱりと宣言をしてくれたのは、傷つく人がひとりでも少ないようにという配慮だったのだろう。
それがいつしか、イジョンはその『友だち』に惹かれるようになり、ウビンは親友たちを優先するようになってしまった。
そして、変えられたのはふたりだけではない。
暴力でしか感情を表す術を知らないジュンピョに、そもそも感情があるのかさえ疑問視されていたジフ。
特にジフは内向的で独特の空間を持っており、F4の溜まり場に顔を出すことはしても、だからといって一緒に何かしようということはなかった。
おそらくずっと、ジフの中にはソヒョンしかいなかったのだろう。
ジュンピョをからかうことに関しては、イジョンとウビンは結構意気投合してはいたし、ジュンピョやジフに対してもふたりで対することは多かったけれど、それでもいつでもべったりというワケではなかった。
それらをいつの間にか変えてしまったのが、ジャンディだった。
ソヒョンはもちろん、ジュンピョの姉ジュニでさえ、見守りはしてもF4の所業はそれが当たり前と矯正することをしなかった。
けれどジャンディは、当人さえそうと知らぬうちに、その日その時を一生懸命に生きること、友情や愛情をはじめとする人の心というお金で買えないものがあることを、言葉と態度で教えてくれたのだ。
権力も地位も名誉も、己の力で手に入れたものでなければ無意味なのだと。
それに気付いたのはおそらく、ジフが最初だろう。
庇護され、守られ、だからその対象に傾倒し、けれど、それ以上の存在にはなり得ないのだと悟ったのは、フランスまで追っていってから。
男として、本当に守ってやりたいという思いが生まれたのは、何も持たないがゆえに何ものにも縛られず、強く立つジャンディのため。
ジュンピョの赤札によるイジメにも屈せず、地位も名声も通用しない人がいるのだとF4に思い知らせてくれた、ただひとりの人。

「なんて説明したらいいのか…」
斜め上を見上げてジャンディがぼそりと呟く。
その背後にいつの間にか、待ち合わせ相手が気配を消して立っていることには気付かないまま。
「ええとね、ジュンピョって、直球でしょ。ううん、豪速球っていうのかな。勢いはすごいし、その時その時に全身全霊をかけてくれるっていうのが分かって嬉しいんだけど、でも、受け取る方も常にすんごく踏ん張って力入れないとダメだし、デッドボールにでもなったらホント息が出来なくなるくらい痛いんだよね」
ジャンディの表情が曇り、どれほどジュンピョとの付き合いが辛かったのかを物語る。
「それだけ強く想ってくれてるって分かってたし、私だってちゃんと好きだったし、もちろん今でもずっと友だちとして付き合っていきたいけど」
そして、んー、と少し首を傾げて、
「ジフ先輩は変化球…でもないなあ、あ、キャッチボール。ちゃんとこっちが受け止めやすく投げてくれて、こっちからも投げ返したらちゃんと受け取ってくれるような、急いだり焦ったりしなくてもいい、そんな感じ」
だからね、と続けたジャンディの言葉に、イジョンは言葉をなくした。
「ジュンピョとは、ボールを受け止められる嬉しさはあったけど、デッドボールもそれ以上にあったし、野次も強烈で、ずっと痛かった」
それを知っていたから、ジフがずっとフォローしていたのだと、今ならイジョンも納得できる。
ただただ、ジャンディが幸せであればと、己の想いに蓋をしてでも、ずっとジャンディが傷ついて泣く時にはひとりでないよう、心を砕いていた。
本当は、泣いてなどほしくないのだとも、分かっていた。
「こっちから投げようとする暇もくれないくせに、受け取れないと怒るし」
お金があってこその道楽もたくさん体験させてくれたけど、突然だし強引だし、庶民の暮らしだって分かんないくせに無理に入り込もうとするからホント困っちゃった、なんて言いつつ、それはけれどいい思い出なのだろう、ジャンディの頬が少しゆるんだ。
「でもジフ先輩は…いつでも私の気持ちを優先してくれて、見守っててくれて、甘やかしてくれて…だから安心してたらいつの間にかないと困っちゃうくらい効いてる毒薬みたいで、ちょっと怖いかも」
へへ、と笑ったジャンディの背後から、
「毒薬?」
甘く低い声が降ってきた。
「せ、先輩!」
その慌てように、イジョンが堪えきれずにくくくと笑う。
「もー、ふたりとも人が悪いですよ!」
頬を紅潮させて抗議するジャンディに、イジョンは冷める前にと飲み物を薦め、ジャンディの隣に座ったジフは自分用に何かを頼んでいた。
「い、いつからいたんですか」
意味もなくカップの中身をスプーンでぐるぐるとかき混ぜながらジャンディが問えば、
「豪速球、あたり」
しれっとジフが答える。
「それってそれってそれってーーーーーっ!」
じたばたと騒ぎ出しそうなジャンディに、過去の経験から学んだジフは、そっと指先でジャンディの口を抑え、
「個室じゃないから」
その一言で途端にジャンディが口をつぐんだのに、イジョンは微苦笑を浮かべたが、ふたりの間に何があったのかは問わずにすませた。
「豪速球に、毒薬か」
なんかどっちも近寄りたくないねとイジョンが呟いた時、ジャンディがジフの手から逃れてアタフタと言い訳をはじめた。
「毒薬っていうか、うん、いつの間にかじんわり体に染み込んでて、なしでは生活出来ないっていう漢方薬みたいな感じでね、でも何よりも消防士さんだから」
「…ジャンディ、ジフの四次元っぷりが移った?」
眉間に皺を寄せながら問うイジョンに、ジフがくすくすと笑い出した。
「だからですね、えーっと!」
消防士の由来を説明をしている間にカウルが合流し、ジャンディが屈託なく笑うのを喜んでくれた。
「ジャンディって、昔っから自分のことを後回しにするから、ほんと、ジフ先輩には感謝してます」
邪気のないその言葉は、けれどジュンピョでは出来なかったことに対するものだと、ジフもイジョンも気付いて苦笑する。
ジャンディに必要なのは、同じように真っ直ぐに進む相手ではなく、進むべき道を切り拓きながらも自分のことを疎かにする時にそっと支えてくれる人なのだと、言外に幼馴染みは告げたのだから。
相変わらず鈍感な当人だけが気付かず、にこにこと笑っていたけれど。