起亜自動車の通常賃金に関する判決及び信義則適用の可否に関する最近の判決動向(上) | 韓国法律・弁護士事務所 法務法人(有)律村(ユルチョン)BLOG

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Ⅰ. 起亜自動車、通常賃金訴訟事件、第1審判決

大法院 2013.12.18. 宣告 201289399 判決(以下、「全員合議体判決」)は、定期賞与は一定の条件を満たせば通常賃金の範囲に含まれると判示しながらも、労働者がこれを基に法定手当の支給を追加で求めることにより、使用者に予測し得ない新たな財政的負担を負わせ、重大な経営上の困難をもたらしたり、企業の存立自体を危殆に陥れるのであれば、そのような追加請求は、正義・公平の観念に照らし、信義則に反するため容認できないと判示しました。しかし、全員合議体判決は、このような信義則抗弁の適用要件に関する明確な基準を示しておらず、具体的な適用範囲に関して実務上で多くの議論を呼んでいます。

こうした状況のなか、信義則に反するか否かが最大の争点となった起亜自動車の通常賃金訴訟の第1審判決が、2017.8.31.に宣告されました(ソウル中央地方法院 2017.8.31. 宣告 2011ガハプ105381105398105404105411判決、以下、「起亜自動車第1審判決」)。ソウル中央地方法院は、賞与は通常賃金に含まれると判断し、労働者側の請求は信義則に反するという会社側の主張を認めず、労働者側の一部勝訴判決[1]を下しました。

 また、起亜自動車第1審判決では、最近議論になってい  る休日労働が延長労働に含まれるか否か[2]も争点になりましたが、休日労働に対する延長勤務手当の加算請求は認めませんでした。

以下では信義則の適用可否に関する起亜自動車第1審判決の主な内容や信義則が認められるか否かに関する最近の判決の動向について紹介します。

Ⅱ.信義則に反するか否かに関する起亜自動車第1審判決の主な内容

1. 被告が予測し得ない財政的負担を負う可能性がある。

起亜自動車第1審判決は、被告と労働組合は、賃金交渉の過程で賞与を通常賃金から除き、基本給と各種手当の増額規模や賃金総額の規模などを決める実務が長期にわたって行われ定着したものと見られ、従って、賞与を通常賃金に算入した場合、賃金交渉当時に労使が互いに予想していた賃金上昇率を遥かに上回り、被告は予測し得なかった新たな財政的負担を負うことになる可能性があると判断しました。

2. しかし、原告が、労使が合意した賃金水準を遥かに上回る予想外の利益を追求したとは考えられない。

起亜自動車第1審判決は、原告は強行規定である労働基準法に基づき認定される権利を行使したのであり、当該法定手当の根拠となる過去の延長夜間及び休日労働により生産した部分の利益はすでに被告が享受している点を考慮すると、原告の請求が正義・公平の観念に重大かつ明確に違背するほど信義則に反しいてるとは言えないとしました。

3. また、被告に「重大な経営上の困難をもたらし」、「存立自体を危殆に陥れる」ものと断定することはできない。

起亜自動車第1審判決は、被告の2008年以降の財政状況などが悪くなく、労働者に毎年支給した経営成果給の合計額が本事件の請求金額を遥かに上回り、被告が最近、中国のサード報復、米国の通商圧力などによる営業利益の減少などに対する明確な証拠を提示しておらず、電気自動車など、今後の投資の適正規模を判断するのが困難であるだけでなく、原告は労働基準法により認定された権利を行使するものであり、被告は原告の過去の時間外労働で生産された利得を既に享受しており、原告に当然支給されるべき賃金が後に追加支給されなければならないという点のみに着目し、「企業存立」の脅威になると考えるのは適切ではなく、原告が会社に「重大な経営上の困難」又は「企業の存立の危殆」という結果について傍観せずに、今後の労使協議を通じて分割返済などの発展的解決策を見出だすことができる点などを考慮すると、被告に「重大な経営上の困難をもたらし」又は「企業の存立自体を危殆」に陥れるとは断定しがたいとして、被告の信義則に反するという主張を受け入れませんでした。

 

[1] 原告側は、賞と出張手・食事手当が通常賃金に該すると主張し、同事件の請求期間の間、賞 出張手・食事手当を通常賃金に含めて再算定した延長·夜間·休日勤務手当及び年次休暇手の賃金未い分の支給を請求し、ソウル中央地方法院は、賞と食事手当が通常賃金に該当するとして、これらを通常賃金に含めて再算定した延長·夜間·休日勤務手当及び年次休暇手の未い分を支払う義務が被告にあると判しました。ただし、同法院は、認定延長休日労働時間及び約定夜勤労働時間は労働時間などから除外し、休日労働る延長労働加算手当の請求及び特別勤務手の追加請求は認めませんでした。結果的に原告が求める請求金額約1926億ウォン(元金6,588億ウォン+利子4,338億ウォン)のうち、約4,223億ウォン(元金3,126億ウォン+延利息1,097億ウォン(38)が認められました。

2 休日労働が延長労働に含まれるとみなした場合、休日労働については休日勤務手当に加えて延長勤務手も支給しなければなりません。