通常賃金に関する後続判決 | 韓国法律・弁護士事務所 法務法人(有)律村(ユルチョン)BLOG

韓国法律・弁護士事務所 法務法人(有)律村(ユルチョン)BLOG

日韓の企業法務、訴訟、個人案件など何でもご相談ください。

   <お問い合わせ> 
   TEL:(日本から)+82-2-528-5243
   E-Mail:mharayama@yulchon.com

前回ご紹介した 2013 年 12 月 18 日通常賃金に対する大
法院(韓国最高裁判所)全員合議体判決では、毎月支払わ
れているわけでない定期賞与金も通常賃金に含めることが
あり得るが、労働者がこのような賞与金を通常賃金に加算
してこれに基づいて追加賃金を請求することは、労使間で
合意された賃金の水準を遥かに上回る予想外の利益を追求
し、これによって使用者に予測できない新たな財政負担を
課し、重大な経営上の困難を招いたり、企業の存続を危う
くする可能性があるため、正義・衡平の概念に基づいて信
義誠実の原則(以下「信義則」)に違背するとみなされ、受
け入れられないと判示しました。ただし、信義則の適用要
件に関してはその基準が明確に提示されておらず、実務上
の混乱が提起されていましたが、最近通常賃金全員合議体
判決の信義則適用の可否に関する2つの下級審判決が宣告
されました。



信義則の適用を排斥した事例
 
 ソウル中央地方法院 2014.4.4 宣告 2012 カ合 100222 判
決では、大法院の全員合議体判決によって、定期賞与金を
通常賃金と認め、被告・大韓民国による信義則の抗弁を受
け入れませんでした。
 大法院全員合議体判決では、通常賃金に該当しないとし
て処理された定期賞与金が通常賃金に算入される場合、会
社が負担すべき追加の法定手当額と前年度対比実質賃金引
上率および、これの過去数年間の平均値、会社の財政およ
び経営状態などを考慮して、労働者側の追加賃金請求が信
義則に違背するか否かを見極めるべきと判示しました。
 このソウル中央地方法院の判決でも、大法院の全員合議
体判決の趣旨に基づき、個人別月賃金総額上昇分はおよそ
6万ウォン(約 5,980 円)であり、既存の方式に従って支
給された 2012 年度賃金総額と比較した賃金引上率はおよ
そ 6.3%に過ぎないこと、被が追加で負担すべき金額の規
模や被告の財政能力を考慮した結果、法定手当を追加して
支給しても、被告に「当該組織に重大な経営上の困難を招
いたり、存続を危うくするほどの財政的負担」となり得る
蓋然性は認められないとし、信義則の適用を却下しまし
た。
 また、この判決は被告が国家であることを考慮に入れ、
一般企業が当事者である場合と比べて被告の信義則違背抗
弁はより厳しく判断されるべきであると判示しました。


信義則の適用を肯定した事例
 
 光州地方法院 2014.4.232011 カ合 3368 判決では、労働者
らが通常賃金であると主張した休暇費、贈物費、盆正月の
帰省費、賞与金のうち、賞与金だけを通常賃金として算定
する賃金と前提にした後、これを通常賃金算定から除外す
るという労使合意が勤労基準法に違反して無効であるとしても、この事件の場合、労働者の追加賃金請求は信義則に
反すると判示しました。
 つまり、(1)賞与金を通常賃金に算入する場合、会社が
追加で負担する加算賃金は労使交渉の資料とした加算賃金
の範囲を著しく超過するだけでなく、労使が相互に了解し
た賃金引上率を遥かに上回り、(2)労働者は当初労使間賃
金交渉などを通じて受けた利益を超過する予想外の利益を
期待できるが、会社側は不測の新しい財政負担を負うこと
になり、重大な経営上の危険がもたらされるとしました。


信義則は、いわゆる一般条項であり、具体的な事件にお
いて正義と衡平の観念に基づき、事案ごとに個別的な判断
が下されることから、その基準を一概には決めがたいもの
があります。したがって、通常賃金に関する信義則の適用
範囲については、今後法院の判決によってその具体的な基
準が定着するものとみられます。
 この二つの判決は、信義則の適用要件に関して具体的な
基準となり得る先例であり、今後、通常賃金に関連する後
続判決にのみならず、現在進行中の労使間紛争にも少なか
らず影響を及ぼすものと思われます。