定期賞与金の通常賃金性-2 | 韓国法律・弁護士事務所 法務法人(有)律村(ユルチョン)BLOG

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定期賞与金の通常賃金性-2

今回の韓国最高裁判所判決は、20122月のクムアリムジン判決以後に続いた定期賞与金などの通常賃金性に対する議論を法理的に最終解決するために、全員合議体判決として、異例なことに、上記の報道資料を通じて主な判示事項を20頁にわたって説明しています。同判決は、定期賞与金のみならず、技術手当、勤続手当、家族手当、成果給など多数の賃金類型の通常賃金性に対して判示したものですが、その正確な意味については今後の詳細な分析が必要となります。

ここでは、今回の韓国最高裁判所判決のうち最も注目される対象になる定期賞与金に対する核心的判断のみを紹介します。その内容は要約すると以下のとおりです。

使用者側の主な主張である、(i)1ヶ月を超える一定期間ごとに支払われる定期賞与金は通常賃金ではないという主張、(ii)定期賞与金などを通常賃金算定から除くものとする労使合意の効力を認めなければならないという主張は排斥した。

ただし、通常賃金認定のために必要な要件のうち、固定性要件に関して、使用者側の主張のうち、支払日在職要件(支払日その他の特定時点に在職中の労働者にのみ支払う要件)が適用される定期賞与金の場合、固定性がなく通常賃金ではないという主張を受け入れた。

たとえ定期賞与金の通常賃金性が認められたとしても、信義則上、定期賞与金を通常賃金に含めて法定手当などの支払いを請求することができない場合があると判示した。具体的には、(i)定期賞与金の場合に、(ii)本判決で定期賞与金を通常賃金から除く労使協議(団体協約など明示上の合意以外にも暗黙的合意や労働慣行も含む)が無効であることが明白に宣言される前に、労使が定期賞与金が通常賃金に該当しないと信頼した状態でこれを通常賃金から除く合意をし、これに基づいて賃金などを定めたが労働者がその合意の無効を主張して追加賃金を請求する場合、予測することができなかった新たな財政的負担を負うことになる、(iii)企業に対して重大な経営上の困難を招いたり、企業の存続自体が危うくなるという事情が認められれば、追加賃金の請求は信義則に反して許容されないとした。

労働者側は、クムアリムジン判決以後に提起された多くの通常賃金訴訟手続が今回の韓国最高裁判所判決を意識して引き延ばされた状況下で、今回の韓国最高裁判所判決を待って傍観的立場をとってきた場合が多いと思われます。

今回の韓国最高裁判所判決が、定期賞与金は支払うが定期賞与金を排除するものとする労使合意の存在の有無を問わず、原則的に通常賃金であると宣言したものであり、労働者側は定期賞与金を含めた通常賃金に基づき過去の法定手当などの未払分と退職金増加分に対する支払いを要求するはずであり、その要求に同調する現職または退職労働者の数も増えると思われます。したがって、賃金体系改編のための労使交渉を行いながら同時に通常賃金訴訟を提起する事例も多くなるものと思われます。

また、通常賃金に関する集団訴訟は、参与者や規模の面で増加するものと予想されます。休日労働が延長労働に含まれるものと主張し通常賃金訴訟の規模が大きくなる現象も起こると思われます。

使用者側にとっては、具体的な事実関係により信義則に基づき支払請求を排除する道が開かれ、特に支払日在職要件がある場合、定期賞与金の通常賃金性が認められないという点の確認を受けたところです。しかし、これまでの主な主張(1ヶ月を超える支払金員の通常賃金性否定、通常賃金性排除の労使合意の有効性)がすべて排斥されることで、今回の韓国最高裁判所判決によってこれまで通常賃金に含まれなかった多くの金品を通常賃金に含めて支払わなければならないと認定される恐れが大きくなりました。

今後、通常賃金に関する韓国最高裁判所判決の内容を変更する立法がおこなわれたとしても、これは将来の労働関係にのみ適用されるため、信義則の適用要件を満たさない場合、これまで発生した使用側の負担が減る訳ではありません。その結果、通常賃金算定に関して多くの法的問題が発生したり、その重要性がより大きくなるように思われます。例えば、これまで履行されたM&Aで定期賞与金の通常賃金認定による買受価格調整または陳述と保障違反による免責の問題、今後履行されるM&Aにおいて対象会社の価値評価、偶発債務発生時の負担主体の決定が、より重要な問題になると予想されます。

多くの場合、使用者側は労働者側と、定期賞与金の通常賃金性が認められないようにするために必要な賃金体系改編交渉を急ぐ必要があります(考えられる方法の一つは、固定性を否定する要素が判示された、支払日在職要件を課すことがあげられる)。ただし、このような賃金体系改編のためには、労働者側の合意が必要であることから、使用者側は定年延長、定年延長適用時点の短縮、各種福祉の恩恵付与など、合意につなげる代替措置を検討する必要がでてきます。また、法定手当支払の原因となる延長労働、休日労働、夜間労働時間を減らしたり、時間制労働者を採用しようとする動きがより活発になることも予想されます。

今回の韓国最高裁判所判決によって定期賞与金を含めた賃金項目の通常賃金性に関する多くの部分が法理的に解決されたが、これが通常賃金問題の最終的解決であるとは思われません。いまだにどのような賃金体系が望ましいかに対する社会的合意が不足している状況で、労使が新しい賃金体系に即座に同意することを期待しにくく、これまで提起された集団訴訟ですべての当事者の個別的合意による紛争解決は現実的に容易ではないと思われます。また、「重大な経営上の困難」といった抽象的要件が含まれた信義則の適用が可能かどうかは事前の判断が難しいと考えられます。

今後の賃上交渉では、これまで定期賞与金が通常賃金に含まれないとみて労使が合意した賃金体系を、今回の韓国最高裁判所判決に従ってそのような定期賞与金も通常賃金に含めて受け入れる体系に変更することを前提として、賃金項目と金額を適切に調整するのが新たな主要課題になると考えられます。したがって、これまでよりも労使間で相反する利害の調整が難しいものと予想されます。

結局、通常賃金に関する紛争は、今回の最高裁判所判決で終了した訳ではなく、また別の局面が労使共に待ち構えていると整理することができます。こういった局面をうまく乗り切るためには、今回の韓国最高裁判所判決の提示した通常賃金法理に対する正確な解釈に基づいた創意的かつ総合的な解決策を導出することが重要となります。