商店街の八百屋さんの店先に大きな段ボール箱に入った小玉スイカが山積みになっていた。いつもスーパーで1人分用に切られたスイカを見て買おうかどうか迷う。綺麗なピンク色の果肉、瑞々しくて喉を通った時の爽快感が想像できるが、何故か一度も買ったことがない。
八百屋さんにあったのは直径20センチくらいの小玉スイカである。小さいけれど、ずっしりと重く3キロ以上ある。これからスーパーへ買い物に行くし「どうしよう」とじっとスイカを見ていたら、70歳代くらいの女性が「私も迷っているのよ」と隣に来て言う。更に「これ、安いわよ」とつぶやく。彼女は今日は他へ行く用事があるからやめておくと言って立ち去った。
黒い縞模様がくっきりして緑との対比が強いものを探した。それを購入し両腕に抱えてスーパーへ向かったけれど、重くて思考が働かない。こういう時の買い物は失敗する。必要な物だけを2〜3個買って速攻で帰宅した。
うちの冷蔵庫は小さい。5年前に帰国した時、東京の生活に馴染むのが難しかったらまた引っ越しすることを考えていたので、敢えて小さめで低価格のものを選んだ。
直径20センチのスイカを丸ごと入れることは出来ないので、まず半分に切り、ひとつはラップをして冷蔵庫へ、あとの半分は一口大に切ってタッパーに入れた。入り切らないものはキッチンに立ったまま、たぶんスーパーで売っているひとり分以上の量を食べた。
久々に食べたスイカの味は「こんな味だった?」と記憶を辿りながら「いや、もっと甘かったはず」と、塩をふりかけながら次々に口にすると、なんだか身体がすっきり、内蔵が綺麗になったような気がした。体温が下がるのを感じたからだと思う。
キッチンのシンクにはスイカの皮と艶のある小さな黒い種が散乱し、あちこちに果汁が飛び散って大変なことになった。白い皮の部分にピンク色の果肉がうっすらと残った残骸が子供の頃の記憶を運んできた。
果肉を食べたあとの皮を、うっかり庭の土の上に落としてしまうと蟻がどんどんやってくる。手は甘い汁でベタベタになり、蟻をよけながら新聞紙に皮を包んで母親に渡した。今思えば、子供たちが家の中でスイカを食べると、あとの掃除が面倒なので庭で食べさせられたのかも知れない。夜に食べなかったのは就寝中にトイレに起きない為だったのだろう。スイカは食後のデザートではなく、午後のおやつだった。
この夏、もうスイカを買うことはないと思うけれど、ひと夏に一度、暑い日に丸ごと買ってあれこれ苦戦するのもいいもんだなあ、と実感した厳しい残暑の日。