少し前、ある少年が語った言葉に「はっ」とした。彼は花火を打ち上げた時の音と胸に伝わるその振動で“花火”を感じるのだという。胸に手をあて「ここに、ずん、と振動するんです」と言う。

 

音と振動が胸に伝わり、華やかな花火が思い描かれるのだろうか。

 

母はお祭り好きだった。普段から賑やかなことが大好きである。上に兄ひとり、下に弟5人の大家族で、商店の並ぶ街なかに生まれ育ったせいかも知れない。

 

私が子どもの頃、お祭りになると母は朝から忙しい。料理をつくり、子供たちの衣装を用意し、とにかく気忙しくなる。その日を、誰よりも母が心待ちにしていたように思う。

 

晩年、母は一人暮らしだった。70歳を迎えてからは、私は心配で頻繁に電話をするようになった。「毎日電話しようか?」というと、絶対にやめてくれと言う。電話が来るまで気になって出かけることも出来ない「自由に生活させてくれ!」とのこと。

 

そんな気丈な母だったが、昔のようにお祭りを心待ちにすることはなくなったようだった。街に祭りの気配を感じたり、衣装の鈴の音が聞こえてくると、「ああ、お祭りか」と思う。10分も歩けば、大通で祭りを見ることが出来るが、人混みで疲れるから嫌だという。その気持はとてもよくわかる。

 

夏、暗くした部屋の窓から聞こえてくる祭りの太鼓の音、最終日の花火の音。

母の胸に響き、何を思ったのだろうかと想像すると「見に行かなくていいの。ここから音が聞こえるから」と言った言葉が、今なら理解できるような気がする。

 

きっとたくさんのことを思い出していたのだと思う。