今年の4月にアメリカで公開され大成功をおさめたホラー映画”Sinners”

(日本語タイトル:罪人たち)

 

舞台は1930年代のミシシッピ州デルタ。この地域はブルースの発祥の地とされている。

青空の下、果てしなく広がる綿花畑に魅了される。

 

中盤、酒場でのライブとダンスがミュージカルのように繰り広げられる。

多様なジャンルの音楽と、舞い踊る人々、過去と未来が重なる映像に圧倒される。

 

後半になってやっと「あっ、これホラーだった」と気付かされる。

 

60年後のラストシーン、吸血鬼が襲ってきた「あの夜」に、唯一人助かった青年サミーは老人になり、シカゴのバーでブルースを演奏をしている。牧師である父親の反対を押し切り、自分の道を歩んだ姿がそこにあった。

 

突然、二人の若者がバーへやってくる。彼らは「あの夜」吸血鬼になってしまった従兄とその恋人。ふたりは人間としての命を奪われ、その代わりに吸血鬼としての永遠の命を手にしていた。従兄はサミーの身体の匂いをかぎ「もう、そんなに長くないな。どうだ、俺たちの仲間入りをして永遠に生きたくないか」と誘う。サミーは「俺は充分に生きたよ」と答える。吸血鬼のいとこはサミーと抱き合い、バーから出て行こうとする。一緒にいた恋人の優しいひと言"Take care, little Sammy"に、なんとも言えぬ寂しさと愛おしさを感じた。彼女は人間の姿をした吸血鬼なのに。

 

去り行こうとする従兄の後ろ姿に、サミーは語りかける。

 

「今でも1週間に一度、夜中に目が覚めて震え上がる時がある。

でも、太陽が沈む迄の“あの日”が、人生で最高の日だった。あんたはどうだ?」

 

「もちろんだよ。最後に愛する兄弟と会い、最後の太陽をみた。ほんの数時間だけ自由だった」と言い、サミーの前から立ち去った。

 

ホラー映画に感動し、胸が熱くなったのはこれが初めてである。

 

あまりの暑さに映画でも観ようと空いている映画を探した。普段は絶対に選ばないホラー。どうしてそれを観に行ったのか、後になって考えても不思議だけれども、これもひとつの「縁」。

 

私の人生最高の日はいつだっただろうか、と考える機会をくれた。

 

いま思い浮かぶ「人生最高の日」は、いつか入れ替わるかも知れない、人生最高の日は過去の想い出だけではなく、更新可能であり、更新するものだと思う。

 

「明日がその日かも知れない」と思えば、人生に希望がもてる。