「諸行無常」この世に不変のものはない。記憶でさえ、人は自分の都合のいいように書き換える。人は「記憶の二重帳簿」を持っている。

 

アナウンサー・古舘伊知郎氏の言葉(超訳)である。「うまいことを言う!」思わず拍手を送りたい気持ちになった。

 

私は長い間ずっと日記をつけている。その日に起きたこと、買ったもの、食べたものなど。

 

滅多にないけれども、あまりにも不愉快なことが起きた時、起こしてしまった時、思い出したくないことは、その内容を詳しく記さない時がある。あとでおおよそのことがわかるように固有名詞だけがポツン、ポツンと書かれている。

 

日記に書きたくもないほど嫌なことは、心に刻まれている。それが私の「記憶の二重帳簿」となる。どこかしら自分の都合のいいように書き換えてある。生きやすくするためのひとつの手段だと思っている。

 

充分に時が経ち、感情的にならずに出来事だけを俯瞰できるようになったとき、二重帳簿が消えてゆく、必要なくなる。これは、あくまでも私の場合のことだけれども。

 

20代前半の頃に五反田の名画座で観たリバイバル映画「追憶」(主演:バーバラ・ストライサンド)。「素敵よ〜!」とオフィスの先輩たちにすすめられて観に行ったが、正直、よくわからなかった。その時の私にとっては、とらえどころのない映画だったような気がする。

 

その映画を15年後に再度観た時、私は感動した。VHSのVideoを何度も繰り返し観た。映画の中の主人公・ケイティ(バーバラ)を愛おしく感じた。

 

映画の内容が変わったのではない、年月を経て私が変わったのである。

 

つい最近、「追憶」のラストシーンをじっくり観る機会があった。前回観た時とはまた違う感情が込み上げてきた。

 

NYプラザ・ホテル前の広場、冬の枯れ木、灰色の空の下、ケイティ(バーバラ)が道行く人に呼びかけながらちらしを配り、政治運動をしている。冬の風景だからこそ、彼女の信念の強さが伝わってくるような気がする。自分の主義・主張を貫く生き方は力強くて美しい。

 

ホテルの前で偶然に見かけた元夫・ハベル(ロバート・レッドフォード)。

彼は若くて綺麗な妻を連れていた。

 

彼には彼の主義・主張があり、生き方がある。再会でのふたりの会話からは、お互いを尊重し、尊敬している気持ちが感じられる。

 

またいつか観たい映画。

 

見る度に感想が異なり、私にとっては自分の変化がわかる心のバロメーターである。