友人がタバコを吸うようになったのは、20歳になった時のこと。
「20歳になったことだし、タバコを吸うんだったら、デュポンのライターを買ってやるぞ」と父親に言われて吸い始めたらしい。父親が娘に喫煙をすすめるのは珍しいと思う。一家でタバコを吸うのは父親だけ、ひとり仲間がほしかったのかも知れない、と友は言う。彼女は2年で吸うのをやめた。
私は“楽しい仲間”の影響でタバコを吸い始めた。我が家でも父だけが喫煙者だった。タバコの値段が上がるという時、母は大きな段ボール箱で買いだめした。そこから1箱抜き取ったこともある。「お父さん、たくさんあると吸う量も増えるわね。もう買いだめはやめる!」と母は怒ったように言った。
私が禁煙したのは2001年の秋、はっきりと覚えている。それまで親しくしていた友人が帰国してしまった。彼女は愛煙家で、我が家へ来る度に美味しそうに「ぷわ〜」と吸う。私はそれまでに何度も禁煙を試しては失敗していたが、その原因を彼女のせいにしている。その彼女が世界貿易センターのテロが起きた秋に日本へ帰ってしまった。そして、私の禁煙が成功したのである。それ以来、今日まで、一度も吸っていない。
20代の頃に勤めていたオフィスの上司が貸金庫を借りていた。何年ものあいだ開けたことがなく、ただ使用料だけを支払っていたことに気づき、一緒に「何が入っているか」確認しに銀行へ行った。
中に入っていたのは自宅の登記簿とクレージュのピンクのライターだった。
「どうして、ライターがここに?これそんなに高価?」と、ふたりでひとしきり笑った。
そして、上司はまたそのライターを貸金庫の中に戻した。
きっと、何か想い出があるに違いない。
あの上司(女性)が、あんな可愛らしいライターを買うわけがない。
想い出を貸金庫に預けておくなんて、なかなか素敵だと思う。