日曜日の午後、かっぱ橋にある図書館へ向かって歩いていると、勢いの良い掛け声と共にお神輿が見えてきた。あちらこちらの路地にそれは見られた。

 

図書館から出て小さな路地を通り浅草方面へ歩いていると屋台が数軒出ている。横を通るとぷ〜んと昔懐かしい「たこ焼き」の匂いが鼻に入ってきた。思わず振り返り鉄板で焼かれているたこ焼きを見た。

 

最後にたこ焼きを食べたのはもう数十年も前のこと。友人を訪ねて大阪まで行った時である。「これが、大阪でいちばん美味しくて、大人気のたこ焼き!」と、わざわざ買ってきてくれた。

 

でも、浅草で漂ってきた匂いはそのたこ焼きではなく子供の頃に食べたものを思い出させた。小学校から帰ると母からもらったお小遣いを握りしめて、踏切をふたつ渡ったところにある神社へ急ぐ。その神社の前の屋台で売っていたたこ焼きが大好きだった。

 

まだ小学低学年の子供には少し遠く感じる距離だったが、何度も通った。せっかく行っても屋台が出ていない時にはがっかりした。それが何回か続き、もう行くことはなくなった。

 

屋台には屋台の共通した匂いがあるのだろうか。その匂いを思い出し、ずっと食べていなかった極々シンプルなたこ焼きを食べてみたい気分になった。

 

浅草新仲見世商店街は浅草最大のアーケード商店街である。いつも混んでいるのでそこは避けて通る場所だが、人の波にのまれて入ってしまった。そこへお神輿がやってきた。

「えっ、ここも通るの?」と驚いたが、考えてみれば当たり前。あのコシノ3姉妹の故郷である大阪岸和田の「だんじり祭り」の光景を思い出した。

 

目の前をお神輿が通り過ぎる。これほど近くで見たことはなく、その活気に触れて顔が上気するのを感じる。

 

午後4時を過ぎてもいろいろな場所からかけ声が聞こえ、お神輿が揺れているのが見える。

 

人混みに疲れ家へ帰る途中、反対方向から70代と思われる男性と小学3~4年生くらいの男の子が無言で並び歩いてきた。ふたりとも祭りの衣装を身につけている。疲れたような顔をしている男児とは対照的に、祖父と見られるその男性はどこか誇らしげにまっすぐを見て口元に笑みを浮かべていた。

 

ふたりの姿が強く印象にのこった。