書店で目に留まった写真集『まちのねにすむ』(著:原啓義)。

 

第8回写真出版賞で大賞を受賞した作品。写真集に登場するのは、銀座・上野・池袋・新宿・渋谷の街を走り回るネズミたち。

 

一匹のネズミが真正面を向いている写真と共に表紙に書かれた言葉がユーモラスで、思わず手に取った。

 

「ネズミたち、今日を捨て身で生きている」

「繁華街に栖(す)む“ちかくてとおいけもの”のロックな日常」

 

私は、NYに移住してから初めて“ネズミ”を間近で見た。それまでは、実家の屋根裏を走る足音を聞いたことはあるが、実際に姿を見たことは一度もなかった。猫を飼っていたからだろうか。

 

NYにいる時に住んでいたアパートの1階はイタリアンレストランだった。ネズミが出やすい環境である。

 

ある日、バスルームから出て廊下をリビングに向かって歩いていたら、ちょうどこちらへ向かって走ってきたネズミと鉢合わせ。お互いにその場に立ち尽くし、目と目が合った。すぐにネズミは身を翻してやって来た方向へ後戻りし、暖房スチームの配管を通って壁の裏へ消えて行った。

 

私は慌ててダクトテープを探し、部屋の隙間という隙間全部にテープを貼った。それ以降、ネズミは現れないが、時々、暖房スチームの配管の奥から「ガサガサ」という音がしていた。

 

セントラルパークを散歩していると、よくリスを見かける。ふわふわの尻尾、白いお腹、両手で木の実を抱え口に頬張る姿はとても愛らしい。

 

どこからかさっと走って来て木にスルスルと登るのは大概はリスだが、たまにネズミだったりする。リスのように大きなネズミが木に登る姿は「ぞっ!」とする。瞬時にわかるのはその尻尾、ネズミの尻尾にはふわふわの毛がない。

 

いつも思うのだが、同じ生き物であり姿は似ているのに尻尾に毛がないだけで、片や「可愛い!」と写真を撮られ、もう一方は「ぞっ!」とされる。「なんて不平等な」と思うのだけれどもそのように身体が反応してしまう。

 

「まちのねにすむ」の写真集のページをめくるのは少し勇気のいることだったが、見ていくうちに、生き延びるための懸命さが伝わってくるような気がした。

 

「ネズミたち、今日を捨て身で生きている」という言葉がそのまま写真で感じるとることが出来る。

 

この写真集に出会い、ネズミに対する気持ちが少しだけ変わったような気がするが、それでも、やはり、どこで出会っても反射的な反応は変わらないだろうし、可能な限り会いたくないと願っている。