西浅草の界隈にはたくさんのお寺と神社がある。
3月初めの午後、上野と浅草の間にある下谷神社へ花手水の写真を撮りに行った。1ヶ月に一度、月初めに新しい花が生けられる。赤、青、黄色、紫、ピンク、色とりどりの大輪の花の中にふっくらと蕾が膨らんでいる桃の枝が数本。春らしい華やかな花手水。
稲荷町から浅草通りをまっすぐかっぱ橋方面へ向かい、かっぱ橋の交差点を通り過ぎて左手へ入ったところに東本願寺という大きなお寺がある。正面入口に立つと、左手の大きな木に盛大に咲く桜が見えた。太陽が煌々とあたり、まぶしくてその綺麗さがわからないくらいである。残念ながらあまりの強い光で写真を撮ることができなかった。
正門を通り過ぎて小さな道を左折して少し歩くと、そのお寺の裏側に通じるひっそりとした出入り口がある。そこから中を覗くと、お寺の建物の影に隠れるように咲いている美しい桜の木が1本目に入り、引き寄せられるように中へ入った。
桜の木は細く、四方に伸びた枝に無数の蕾と小さな花が咲いていた。こじんまりとした木の枝に咲く限りなく白に近いピンク色の桜、今にもはち切れそうな丸々とした蕾。
日の当たらない建物の影に咲く桜の美しさに心がしめつけられた。何枚も写真を撮り、離れがたい思いでその場所をあとにした。
人間にもそういう人がいる。本人は自分の美しさに気づいているのか、いないのか。美しさを過度に主張しないことが、よりいっそう人の心を惹きつける人。
近いうちにまた、あまり人のいない、ひっそりとした裏口に咲く桜を見に行こうと思う。