大晦日の午後、地下鉄に乗って神楽坂へ。

思いのほか地下鉄は空いており日比谷線も東西線も座ることが出来た。

 

神楽坂通りを歩くと、スピーカーから聞こえるアコーディオン演奏のシャンソンが「小さなパリ」を思わせる。

 

雑貨店の前に立てば、店内から「サン・トワ・マミー」(フランス語原題:Sans toi ma mie)の歌、商店街を歩けばあちらこちらからフランス語の会話が聞こえてくる。フランス人らしき人たちが自転車をひいて歩いている。

 

神楽坂が「プチ・フランス」と呼ばれていることを知ったのはつい最近のこと。

 

その神楽坂通りのほぼ真ん中に、赤い門が目立つ「毘沙門天 善國寺」がある。元旦を前に準備が進められているが、既に何人もの参拝者がいた。

 

門をくぐり、本堂に向かう階段の手前でひとりの女性に声をかけられた。

 

「上まで行かれますか?」

 

「はい」と答えると、自分は足が悪いので上まで行けない、代わりにお賽銭を入れてくれないだろうか、と言う。

 

ふと、彼女の足元を見ると小さなスーツケースを持っている。ほんの一瞬、それを私が持って、彼女を支えれば上へ行けるだろうかと思ったが、まるで私の考えを察したかのように「私はここでいいんです、お賽銭だけお願いできますか」とのこと。

 

私は彼女から少なくはないお賽銭を預かり、足早に階段を上がった。「お気をつけて!」と背後からその女性の声が聞こえる。

 

本堂まで辿り着き、お賽銭箱に預かったお賽銭をいれて後ろを振り返り階段下にいる彼女に向かって大きく手を振り「入れました!」というサインを送った。あらかじめ私が勝手に申し出たサインである。

 

彼女は丁寧にお辞儀をしてくれた。私はお祈りの邪魔にならないように横長のお賽銭箱の端の方に退き、自分のお賽銭を入れて手を合わせた。振り返り階段の下へ目を向けると彼女の姿はもうなかった。何度も目を瞬いたが、どこにも彼女の姿はなかった。きっと、私が自分で思っていたよりも長く手を合わせていたのだろう。

 

50代くらいの化粧っ気のない白髪の女性だったが、足を痛め、荷物があってもお参りに来られたことを考えると、もし彼女がお願い事をしていたのであれば、どうか叶えられますようと祈りたい。

 

これもひとつの出会い、彼女が私に声をかけてくれたことを嬉しく思う。

 

新しい年にも、たくさんの出会いがありますように。