大勢の人で賑わう或る地域の一角に小さな占いの館がある。人が2人も入れば息が詰まるようなプレハブみたいな部屋に小さなテーブルと椅子が2脚、ひとつの椅子には占い師が座っている。ここ数年、いつも同じ50~60代の女性の占い師だった。
週に1~2度は通る道であるが、占ってもらっている人をあまり見かけたことがない。夏は暑いし、冬は寒い。長い時間そこにいるのはさぞかし大変だろうと、いつも女性占い師の方を見ながら通り過ぎていた。
ある日、その小さな館の看板を数人の男性たちが取り替えている様子を見て不思議に思ったが、その日もただ通り過ぎた。
数日後、その道を通ると、今までいた女性占い師の方ではなく、男性が座っていた。外に4〜5人の行列ができていた。先週末も箱部屋の中にはお客がいて外に数人待っていた。
女性から男性にかわっただけで行列が出来るのか?そこに座っている男性占い師は特に有名でもないらしいし、とりわけ愛想が良いとも思わない。
風向きが変わる、という言葉がある。「風の吹く方向が変わる。 転じて、物事の状勢が変わる」こと。
こうなると、以前の女性占い師の方が気の毒に思えてくる。まだ皆がマスクをしている時から辛抱強くそこに座っていたのに。
かれこれ3~4年になるが、何度も通るだけである種の親しみがわいてくる、そのうちに1度みてもらいたい、という気持ちが湧いてきていた。
占いを100%信じているわけではない。どんな言葉が出てくるのだろう、と興味がある。私はいったいどんなことを言われるのだろうか。
「本を開き、たまたまそのページに書いてあることに“はっ”とさせられる」ように、言葉を聞いてみたいと思ったのである。
いつも思うが「今度」はない。
会話をしたことはなくても、何度も見かけるだけで、何らかの気持ちの伝わりがあるものなのかも知れないと思う。人の感情って不思議。