フランス・ドイツ・スイス・日本合作(2023年)
桜の季節に訪れる、京都、奈良、直島の旅。フランス人シドニの目を通して紡がれる
“美しき日本”
青空に映える満開の桜、鹿が草を食む奈良公園、苔庭の法然院。寺社仏閣や老舗旅館、古書店などを訪れ、日本文化と伝統、信仰と死者との関係を発見していくシドニ。坂本龍一の楽曲が彩る穏やかな直島の海を見つめる彼女の目を通して、私たちも改めて魅力あふれる日本を再発見することができるだろう。
フランス人作家シドニが、日本の出版社から招聘される。見知らぬ国、見知らぬ人への不安を覚えながらも、彼女は未知の国ニッポンにたどり着く。寡黙な編集者の溝口に案内され、日本の読者と対話しながら、桜の季節に京都、奈良、直島へと旅をするシドニ。そんな彼女の前に、亡くなった夫アントワーヌの幽霊が現れて……。
(上記、公式サイトより抜粋)
日本を訪れる海外の旅行客から見る日本は「まだこんなイメージ?」と驚く場面が数カ所ある。いちど印象に残ったことは時代が流れてもそのまま、もしかしたら更に誇張されて記憶に刻まれるものなのかも知れない。空港で誘導する係員たちの奇妙な動き、ホテルや旅館のスタッフの過度なお辞儀など。
映像は美しく、時間がゆっくりと過ぎる。主人公シドニは日常とは違う空間で不思議な感覚を味わうように名所を巡る。
初日のホテルで不可思議な事が起こる。それは亡き夫の仕業なのだが、妻を気遣っていきなり姿を見せずに少しずつ存在をアピールしているらしい。亡き夫の悪戯や現れ方が面白くて笑ってしまう。
「今、君が見ているのは、君がつくった僕の姿だよ」と言う。
オペラ歌手の森公美子さんの「亡くなった友人が幽霊となって現れた時の話」を聞いたことがある。森さんは「夢だったのかもしれないのですが」と何度も前置きをして次のように語っている。
集中力のある幽霊が相手の右脳に働きかけて、見る側が映像を創り上げている。「あなたがつくっている映像なのよ」と幽霊になって現れた友人が説明してくれたという。
なんとなく納得してしまう話である。
シドニは夫と会話をするうちに死を受け入れることができたのかも知れない。旅の後半で夫は消えていなくなってしまう。
日本を旅することで、夫が亡くなった後に閉じこもっていた殻から抜け出し、再び文章を書き始め、新たな活力ある人生を歩みだすことができたように見える。
映画の中の時間がゆっくりと過ぎる分だけ、理解するのにも少し時間がかかったが、不思議な感覚がのこる映画だった。