数ヶ月前、しばらく空き地だったアパートのお向かいの工事が始まった。

 

朝から夕方までがんがん大きな音を立てて少しずつ建物が出来ていく。まだ窓を開け放したい季節、音の強弱をみはからってベランダのドアをあける。何が出来るのだろう、と思いつつ毎日進んでいく状況を見ていた。

 

どんどん工事が進み、すっかり建物らしくなり、あともう少しという頃からもの凄い怒号が聞こえるようになった。お向かいと私の住むアパートの間には4車線の大通りがある。交通量も多く、車の騒音は大きい。そんな騒音などかき消してしまうほどの怒号。

 

あまりの乱暴な言葉に呆れ、ベランダからお向かいを除くと作業着姿の男性の後ろ姿が見えた。建物の入口付近から中へ向かって叫んでいるようだった。工事をしている人に対して怒っているらしいが、聞くに耐えない乱暴な言葉、その言い方にとても不快になった。

 

それが2~3日続いた日、工事を請け負っている会社に電話をしようかとまで思った。今日の工事が終わったら現場に表示されている連絡先を見に行こうと考えていた時、ぴたっと怒号が止まった。

 

ベランダから見るとひとりの男性がくるりと向きをかえて路地へ入って行った。近所の人だろうか。それ以降、怒号が聞こえることはなくなった。

 

数日後に工事は終了し、ゲームセンターが新装オープンした。

 

「あ〜、開店日に合わせる為に工事を急いでいたんだ」と、あの怒号の意味がわかったような気がしたが、あれは酷すぎた。

 

12月になり、就寝前に空気の入れ替えのためにベランダのドアをあけると、お向かいのゲームセンターの入口に大きなクリスマスツリーが飾られているのが見える。毎夜、きらきらと綺麗に輝き楽しませてくれる。

 

あの時に怒鳴った人も怒鳴られた人も、今は落ち着いて平和な気持ちでいてほしいと願うばかりである。