夫の両親と同居していた頃、夜の食事の支度は私の担当だった。
「今日はハヤシライスです」と宣言した朝、出かける前の義母はしつこいくらいに何度も「にんにくを多めに入れてね、その方が美味しいから」と言う。「わかっていますって!」と心の中でつぶやき、笑顔で見送った。
「あんなに何度も言わなくてもいいのに、しつこいな」と思いながら家事をこなし、買い物へ出かけ、あっという間に午後になった。
夕刻近くなってから作り始め、途中、ワインなど入れて、ゆっくり煮込んでハヤシライスは出来上がった。
あとは皆が帰るのを待つばかりというタイミングで「あっ!にんにくいれるのを忘れた!」と気付いた。しかし、今さらどうしようもない。いつも言われなくても当然のように入れるのにどうして忘れてしまったのだろう・・・
家族皆が帰宅しテーブルを囲んだ。義母は美味しいとも美味しくないとも言わずに黙々と食べた。「にんにく入れた?」とも聞かれなかった。私は当然にんにくはたくさん入っているかのようにしらを切って食べた。
義父だけが「これワインいれたの?」「うん、やっぱり入れると味が違うね」とご満悦で、夫もそれに同調して「うん、うん」と頷く。パスタソースでも何でもワインを入れたと聞いただけで満足する義父、入れ忘れても気づかないのだけど。
ある夜、夫と私は人に会うために外出することになっていた。夫はその夜に見たい番組があった。まだビデオカセットで録画をする時代。その時、予約録画のシステムが壊れていたようで夫は義母に録画をお願いした。夫はしつこいくらいに何度も繰り返し、テレビの画面の横にメモまで貼った。
義母は「私だって、それくらい出来ますよ!そんなに何度も言わないで!」と怒ったように言った。
録画をしてもらった番組を楽しみに帰宅した夫。
「ごめん!録画するのをわすれちゃった・・・」と言う義母に呆れていたが、私は思った。
あまりしつこく「忘れないでね!」と念を押すのは逆効果である。
でも、何故だろう、不思議でならない。