買い物へ行く途中の裏通りに小さくてモダンな3階建てのビルが建った。1階はガラス張りでオフィスになっている。2~3階は住居のようである。1階の入口に貼られた銀色のプレートの文字を読むと、建築事務所・一級建築士の名前が書かれている。なるほど、洒落ている理由がわかった。

 

甥は幼稚園の頃から絵を描くのが好きだった。ある日完成した絵は3階建ての一軒家。

各部屋に家具、そこに入る人物も描かれている。嬉しいことに私の部屋もあった。

 

甥が大学に入学してすぐのこと。甥の父親が息子に将来の夢を尋ねた。

 

「そうだな、2級建築士の資格を取って・・・」と甥。「ん?」とその言葉に「なぜ?」という疑問が湧いた。父親も同じことを思ったらしく「なんで2級建築士なの? 夢、希望なんだからさ、1級建築士って言ってくれよ」と頭を振る。

 

「だって、宣言して取れなかったらカッコ悪いじゃない。2級と言っておいて1級取れたらカッコいいでしょ」と甥。

 

確実に実現できそうな範囲に夢をおさめる、ちょっと驚いた。でも、甥の気持ちがわからないでもない。

 

ずいぶん前になるが、私はアメリカ、ニューメキシコ州にあるサンタフェという街が大好きで、いつかそこで暮らしたいという夢があった。それを友人との雑談のなかで話したことがある。

 

それから数年が過ぎた頃、「あなた、サンタフェに住みたいって言ってたじゃない。どうしたの、ぜんぜん行かないけど」と、鼻でせせら笑っているような言い方をした。嘲笑されたような気がして少し落ち込んだ。

 

母のことで日本へ行くことが多くなっていた時期でもあるし、まあ、金銭的な事も含めいろいろな事情がある。

 

「現実的にはなかなか思い通りに行かないものね」と答えたが、良い気分ではなかった。

 

日頃、いろいろな目標や希望が思いつく。それを応援してくれる人もいる。圧倒的にそちら側の人の方が多い。

 

「目標があったらどんどん言った方がいいの。そうすればそれに関する情報があちこちから入ってくるから」とアドバイスをくれた知人もいる。

 

甥は無事に大学を卒業し建築業界に就職した。その数年後に退職をして現在はまったく違うことをしている。それでも、いい。何度でもやり直しは出来る。

 

次の目標に向かって邁進してほしい。