会計事務所に勤めていた時のこと。

ある日、先生がニコニコ微笑みながら私の方を向いて言った。

 

「毎日同じことの繰り返しばかりでつまらないと思っているかもしれないけど、僕は楽しいよ。だって、ここにはいろいろな人が来るだろう。皆それぞれ異なるパーソナリティーを持っていて面白いじゃないか」

 

先生は日系3世で日常会話の日本語を理解できる程度、日本人の顧客のほとんどはアシスタンである私たちが中に入る。だから、アシスタントは大勢のお客様と話す機会がある。

 

事務所の規模は小さいが、中小企業、個人営業の顧客が30社、1年に一度の税務申告の個人の顧客は400名を超えていた。各社の給料日、税金支払日、消費税支払い日を除けば普段のしごとは落ち着いている。残業が続く超多忙期は年明けから税務申告期限の最終日までの約3ヶ月である。

 

きっと、よほどつまらなそうな顔をして働いていたのだろう。もし、そうならば先生には本当に申し訳ないことをしたと思う。決してそんなことはなかったのだけれども。

 

先生の言葉通り、確かに顧客の一人ひとりにはそれぞれの個性があり、それは税金支払時に如実に現れる。

 

入社当初、顧客からの電話を受けても個人の名前と会社名が一致しないで苦労した。「どちらの佐藤様(仮名)でしょうか?」を何回か繰り返していたら「いちいち聞くなよ!」と怒られたことがある。

 

数年働き事務所を去る時、その怒鳴ったお客様がチョコレートの箱を持って「お疲れさん、いろいろと世話になった、ありがとう」と会いに来てくれ、私は感激した。

 

人との関わりは本当に面白い。

 

信頼関係は紡ぐものだと思った。