数多くの映画の中にマンハッタンのシンボルとして登場した世界貿易センター(The World Trade Center)、開業は1973年4月4日。

 

そこにある時には“あたり前に存在するもの”だったのに、2001年9月11日以降、その姿は特別なものになった。

 

月の輝く夜に(Moonstruck 1987)、ウォール街(Wall Street 1987)、ワーキング・ガール(Working Girl1988)、ブラック・レイン(Black Rain 1989)

 

私の記憶の中に強く印象に残っているのは、これらの映画のオープンニングにパワフルに、美しく映し出される姿である。

 

その他にもキング・コング、スプラッシュ、ステラ、ダニー・ブラスコ、サタデー・ナイト・フィーバー、数えきれないほどの作品に登場している。

 

懐かしい映画のの中に見るその姿は、今となっては以前にも増してその時代の象徴として映る。また、あの日、犠牲になられた方々への思いが重なり言葉に言い表せない感情が湧き上がる。

 

世界貿易センターが崩壊した日、犠牲になられた方々とその家族、友人、NYにいた人たちそれぞれにストーリーがあり、多くの人たちの人生を変えた。

 

『ミリキタニの猫(The Cats of Mirikitani)』は、同時多発テロ後にアメリカで制作され、2006年に公開されたドキュメンタリー映画である。

 

世界貿易センターから近いソーホー地区の片隅で絵を描き暮らしていた画家、ジミー・ミリキタニ氏(日系二世)。

 

2001年1月、映画監督のリンダ・ハッテンドルフさんは初めてジミーさんと出会った。可愛い猫の絵に惹かれて声をかけると、彼はその絵をくれた。それ以来、毎日のように彼を訪れ、彼が描いた絵を見て話を聞くうちに、なぜ彼はここに居るのだろうか、過去に何があったのだろうか、彼のことをもっと知りたいと思った。

 

ジミーさんはカリフォルニア州で生まれ、生後3ヶ月で帰国。18才まで広島で育ち、その後、画家になる夢を抱いて再びアメリカへ戻る。第二次世界大戦時には強制収容所に送られた。

 

タワーが崩壊した時に発生した大量の煙は近隣を覆い尽くした。身体に悪い影響を及ぼすことを心配したリンダさんはジミーさんを自宅に招き入れた。最初は断った彼を説得して自分のアパートに住まわせ、その生活は約5ヶ月間続いた。その間、リンダさんは彼が一度喪失した市民権を再度取得するために尽力し、永住できる住まいを探した。

 

映画が上映され、その後、ジミーさんは70年ぶりに日本を訪れた。

 

ジミーさんがNY市内の福祉施設で暮らすようになってからも、リンダさんは週に1度のペースで訪れ、祖父と孫娘のような関係は最後まで続いたという。

 

2012年死去、92歳だった。

 

この映画を観て、ジミーさんの人生、人との出会い、また、人と深く関わり合うことの覚悟と意義というものを考えさせられた。

 

ジミーさんのユニークな個性とリンダさんの深い人間愛を感じるドキュメンタリー映画である。