山本美香さんのことは彼女が取材先のシリアで銃撃にあったとのニュースを見て初めて知った。その映像にショックを受けた。

 

2012年8月20日 シリア・アレッポにて死去(45才没)

 

ネットで検索した中に目に留まった1枚の写真がある。彼女が異国の街中に立ち、笑顔でカメラに視線を向けている。背後には現地の人々が大勢映っている。赤いストールを頭の上から首にかけて巻いたその写真を見て、その内面から湧き出るような美しさはどこから来るのだろうかと目が釘付けになった。

 

つい最近、テレビ欄に彼女の名前を見つけその番組を視聴した。

「サラメシ」昼食をテーマにした番組である。

 

山本さんと公私ともにパートナーだった佐藤 和孝さんのオフィス兼自宅。ここに彼女も住んでいた。

 

トマトと卵を一緒に炒めたもの、オリーブオイルでソテーしたチコリとソーセージ、真ん中から半分に開いたイングリッシュマフィン。それらのシンプルな料理を並べた一皿。生前、山本さんが好んでよく食べたランチだという。

 

「彼女は午前中はよく寝ていました」と笑みを浮かべて語る佐藤さん。

 

山本さんが生前使用していたデスクの上に飾られた写真。私が見たことのあるものとは違う、顔がクローズアップされた一枚。赤いスカーフを被り控えめに微笑んだ表情から深い優しさが感じられる。何かを語りかけているような、そんな写真に見える。

 

アフガニスタンのある民家を訪れた時の動画がある(日テレNews:戦場を歩いてきた 特別編 ジャーナリスト山本美香さん没後10年 その後、戦争は…)。異国から突然来た訪問者に戸惑う現地の女性たち。その中には赤ちゃんを抱いた女性もいる。英語は通じない、従って会話が成立しない。山本さんは「大きな栗の下で」を歌い始めた。困惑した表情を見せていた女性たちに笑い声が起こり場が和んだ。

 

山本さんが亡くなられてから出版された「山本美香という生き方」の本の中に、その時のことに関した一文がある。

 

「言葉は通じなくても、心は通わせることが出来る。美香さんに備わった天性の才能のひとつを象徴するような一コマ」

 

佐藤さんはこの本の中でも山本さんはよく寝る人だったと語っている。

 

「なんでも一生懸命にやるから疲れちゃうんでしょう。本当によく寝ていましたよ」と。

 

白いお皿に盛り付けられたワンプレート・ランチと写真立ての中で微笑む山本さん。

そこには普通の生活があったのだと思わせる空気を感じる。