浅草からかっぱ橋へ行くには国際通りを横切る。その信号を待つ交差点のスピーカーから音楽が聞こえてくることに気づいた。大通りなので車の騒音が大きくて、意識しなければどんな音楽が流れているのかわからない。耳を澄ませ聞こえてきたのはフランス語のシャンソン。なんだかその場所に合わない音楽だし、誰かこの音楽に気づく人はいるのだろうか。

 

よく考えてみれば「合わない」ということはないのかも知れない。付近にはかつて、浅草フランス座演芸場(現在は東洋館)があった。その名残りなのだろうかと、と本気で思う。

 

こんな小さな音に耳を傾けている人はいるのだろうかと思っていたら、自転車に乗った青年が何か違和感を感じたのか、怪訝そうな顔で信号の上にあるスピーカーに目を向けている。

 

私がそのフランス語の音楽に気づいたのは数週間前のこと。浅草のあちらこちらでお神輿がかつがれ、「わっしょい!わっしょい!」と掛け声が聞こえてくるなか、フランス語の物憂げで気怠い感じの歌が耳に入ってきて違和感を覚えたのである。それまでも何度もそこで信号待ちをしていたのに、まったく気づかなかった。

 

初夏、はっぴ姿の大勢の人たちが勢い良く声を掛け合う中で呟くようなシャンソンが聞こえる。耳を傾ける人がいてもいなくても関係ない、というように歌が流れている。

 

秋になり少しメランコリックになったら、小さく聞こえてくるフランス語の歌もしっくりくるのかもしれない。

 

浅草六区のすみっこに感じるフランス、じっとり汗をかきながら、なぜか哀愁を感じるのである。

 

フランス在住のYouTuberさんの動画。パリから離れた場所で開かれたご友人の結婚式。明け方4時迄、本当に楽しそうに、食べ、飲み、歌い、踊る。その姿はひたすらエネルギッシュで、明るく、ハッピーな様子。こんな楽しい結婚式は見たことがないほど。フランス人であるYouTuberさんのご主人も、いつもユーモアに溢れ、面白い。実に人生を楽しんでいるように見える。

 

私のフランスに対するイメージ、メランコリックとか哀愁とかはどうやって植え付けられたのだろう。

 

それはきっと、子供の頃、秋になると聞こえてきたシャンソン「枯れ葉よ〜 ♪」の影響だと思う。