新潮社・編集者の中瀬ゆかりさんと肉乃小路ニクヨさんの対談

(flier公式チャンネル 6.15.2024)

 

中瀬さんの長年のパートナーだった作家・白川道さんは2015年4月に亡くなられた。

その後2年あまり、中瀬さんはひとりになることを避け、友人、知人と毎夜食事に出かけたとのこと。

 

悲しみから抜けることができたのは「おとうちゃんが身体の中に入ってきた」と感じた時からだという。「自分の身体の中にいてどこへでも一緒に行くことが出来るんだ、別れたわけじゃない、一緒になったんだ」人は死んだらいなくなると思っていたが、死んだら一体化したのだと語ってくれた。この言葉を聞いて、私は深く頷いた。

 

私の母は2015年1月に他界した。

当時NYで生活していた私はNYと日本を往復する生活をしていたが、離れている時はずっと距離を感じていた。母はいつも海を越えた遠くにいた。その距離もまた愛おしかったのだけれど。

 

それが、母が他界していろいろな事を終えてNYへ戻った時、その距離がなくなったことに気づいた。

母は私の中にいる、と実感したのである。母は遠い天国へ行ったのではなく、私の中に入ってきた。

 

そのことを、中学の時に母親を亡くした友人に話した。「不思議なの。生前はNYと日本の距離を感じていたのだけど」と言葉を詰まらすと、「入ってきたんでしょう。あなたの身体の中にお母さんが入ってきたんでしょう。私も同じ経験をした、母が亡くなった時に」と言う。

 

「やっぱり、そうなんだ!」同じ経験をした友と語り合った。

 

その年の春、桜が満開になったセントラルパークを歩き「お母さん、ほら、桜が満開だよ、綺麗だね」と自分の中に確かに存在する母に話しかけながら歩いた。

 

中瀬さんは「亡くなった人が皆入ってくるわけじゃない」とも言う。私はその言葉にも大きく頷く。

 

若い頃、大好きだった人が突然亡くなった。ショックでなかなか現実を受け入れることが出来ず、夜ひとりになると自然に涙が溢れ出る日が長く続いた。そして、いつもその人の存在を近くに感じた。私に寄り添ってくれている、と思っていた。それは何年も続いた。ある日、その人の気配を感じない日があった。「あっ、今日はいない」

 

それから、私の環境は少しずつ変わっていった。次第に新しいことが起こり始めた。

 

あれから数十年、今はもうその人の気配を感じることはなく、夢に現れることもなくなった。