軍服を着た人 | Y's Diary

繁華街の中にあるカフェ。そこを通る度に気になる人がいる。東南アジア系のカーキ色の軍服を来ている体格のいい男性。赤茶色の軍服の時もある。その軍服は立派でかなり偉い人が身につけるようなものに見える。濃い色のサングラスをかけ、膝までの硬そうな黒いロングブーツを履き、帽子も被り、じっとしている。

 

彼はいつも店の外の椅子に座り、通り過ぎる人達を眺めているように見える。いつ通っても微動だにしない。サングラスの奥の目がこちらを見ているようで怖い。

 

何回目かに、私は思った。「私にはこの世に存在しない人が見えているのではないか」と。

少し怖くなり、その道を通るのをしばらくやめた。

 

久々にその道を通り、そのカフェに視線を向けた。いつもの場所にあの軍服姿の男性がおり、なんと、隣の若い女性と話をしている。白い歯を見せて笑っている。

 

「あっ、この世の人だった」

 

ほっとしたような、なんだかつまらないような気分である。

 

真夏の五番街、肌を露出した人達が足早に行き交うなか、ギラギラ炎天下だというのに、ロングの毛皮を着た年配女性を見かけた。彼女はショッピング・カートを押しながらゆっくり歩いている。不思議なことに、まわりの人たちは誰も彼女を気にとめず、振り返りもせずにすれ違い、追い越して行く。

 

「どういうこと?こんなに暑いのに」

 

友人にその話をすると、「私も見たことがある!」と言う、同じ五番街で何度も見かけたという。

私達は、あれは浮遊霊に違いない、と結論付けた。

 

毛皮の彼女は冬に見かけることはなかった。同じような毛皮を着ている人が大勢いるから目立たないだけなのかも知れないが。

 

極端に違和感のある服装は人の目を引き付ける。それがこの世の人でも、そうでない人でも。