恵比寿にある日本料理店・賛否両論の笠原将弘氏が「これぞ、ご馳走」とご自身のYouTubeで紹介したのがおむすびと丁寧に出汁をとった味噌汁。

 

私はおむすびが大好物である。今までにどれだけのおむすびを作っただろうか。

 

友人のパーティにもおむすびを作っていく。3口ほどで食べ切ってしまう小さなおむすびを30個くらいつくる。具をご飯に混ぜて握る。炒り卵と胡麻、枝豆と胡麻、色合いが良いし、無難である。枝豆はアメリカでも人気がある。海苔はお好みで巻く。

 

大皿の上に乗ったライスボールを初めはしげしげと見て、勇気を出して口に運ぶアメリカ人。

一口食べて、「うんうん」と無言で頷く姿を見て安堵し嬉しかったものである。

 

知人男性のお子さんが小学生の時のお弁当は海苔を巻いたおむすびだったとのこと。それを見た同級生から「何、その黒いものは。気味が悪い」と言われるのだが、お子さんはそのおむすびが大好きだからお弁当の日には毎回作ったという。シングルファーザーだった知人は娘が卒業するまでそれを続けた。

 

青森・岩木山麓の山荘に悩みや問題を抱えた人たちを迎え入れ、その声にひたすら耳を傾ける「森のイスキヤ」を運営なさっていた佐藤初女さん(2016年逝去)。

 

どんな時も来る人を拒まない癒しの場をつくり、おむすびをふるまった。深い悩みや重荷を感じた時にそこを訪れ、再びもとの場所へ帰る。心のふるさとでありたいという思いを込め、また「食べる」という人間が生きるための根本の営みを通して、「命とは何か」を伝え続けた人生だったという。

 

佐藤初女さんの心のこもったおむすびで癒やされた人達が、のちに地元で取れた新鮮な野菜や海産物を森のイスキヤへ送り、そこを訪れた人に食べさせてあげて下さいという。人の優しさが巡り広がっていくようである。

 

落ち込んだある日、知人のアパートを訪ねた。抱えている問題を相談するでもなく、ただ世間話をして時間が過ぎ夕刻になってしまった。知人は「簡単なものしか作れないけど、夕飯を食べて行ってね」とキッチンに立った。テーブルに並んだのは温かいお味噌汁と炊きたてのごはんで作ったおむすび。NYでは貴重な日本食材を使ってくれた料理。

 

何も聞かず、詮索せず、知人の気持ちが心に沁みたご馳走だった。