地下鉄の座席に座り車内に貼られている広告をぼんやりと見回す。ふと、制服姿の女学生が本を読んでいるのが目に留まった。他の人達は皆スマホを操作しているなかで珍しい、と思った。

 

紙の本が売れないと言われる時代、若い人が本を読んでいる姿は私にとっては新鮮に見えた。膝の上にカバンを置き、その上に両手を遠慮がちに広げて本を持ち、物語の世界に入り込んだようにじっくりと読んでいる。

 

今の中高生はどんな本を読むのだろうと興味があったのだが、ちょうど彼女の真向かい側に座っていたおかげで、その本のタイトルが見えた。

 

「言の森  西尾勝彦」と書かれている。初めて目にする作家の名前。

 

表紙に緑の森が描かれているその本に、ピンク色の付箋紙がたくさん貼られている。

何度も時間をかけて読み込まれている様子が伺える。

 

西尾勝彦さんのサイト、NOTEを拝読させて頂いた。西尾さんは詩人であり現役の国語教員とのこと。

2007年から詩を書き始めているらしい。

 

約2ヶ月前の投稿記事に次のようなお知らせがあった。

 

「作品『言の森』が、中学校の国語教科書(三省堂)に掲載されることになりました。巻頭の詩として載るようです。令和7年度(2025年4月)から、全国の中学3年生が読んでくれることになります」

 

「長い間、詩人として、いわゆる詩壇といったものから遠いところで活動してきました」

 

「詩を書きながら学校教育に携わってきた者として、これ以上の統合的、象徴的な出来事はないかもしれません。若い人たちのこころに、言の森が生まれますように…」

 

ちょうど数日前、友人と「言葉」に関して話していたところである。

「言霊ってあるよね」「人を傷つけたり、悲しませたり、乱暴な言葉はなるべく使いたくない」

 

西尾さんの詩を読み、なおさら思う。

 

実際にはその思いとは裏腹な言葉を口にしてしまうことがあるのだけれど、気をつけなくては。

 

たまたま同じ車両に乗り合わせた女学生さん、ありがとう。