* 知人男性の話し
若い頃に10日ほどの休暇を取り旅した場所がリスボン。港町の安宿に滞在した。夜になると開け放した窓から近くのバーでファドを歌う女性の声が聞こえてくる。明かりを消した2階の部屋の窓から声のする方へ目を向けると、少し離れたバーの扉が開いている。毎晩聴こえてくるその声に彼は恋のような感情を抱いた。
ファド(Fado)とは:ポルトガル語で「宿命」や「運命」を意味し、ポルトガルギター(ギターラ)とクラシックギター(ヴィオラ)を伴奏に、歌手が情熱をこめて歌う民族歌謡。
「いいんだよなあ、ファド・・・」まるで今もその歌が聞こえるかのように、頭上にある音を手でかき集めて耳に運ぶような仕草をする。
ファドに心惹かれ、東京へ戻りまた忙しい日々を送るのが嫌になってしまったという。休暇がそろそろ終わろうとする頃に勤め先に電話をして辞職すると申し出た。上司の熱心な説得により、半年の休暇を取ることにした。そして半年の間ずっとその安宿で暮らした。
日が暮れた頃、かすかな潮の香りのする風と共にファドが聴こえてくるなんて、私も経験してみたいと思う。
お酒を飲み気分が乗ってくると彼はファドを口ずさみ、旅の話しをする。
そういう想い出話しは、聴いた方もずっと覚えているものである。
* シンガーソングライターの井上陽水さんがバンコクからネパールのカトマンズを旅した時のこと。
最初に到着したバンコクでカルチャーショックを受けたが、カトマンズはそれから更にショックを受けた。日本の下町よりも更にもっと5段階くらい下町という状態。「あけっぴろげっていうんですか、なんていうんですか、あれは」と笑う。「いろいろ大変な町だなあと思って上を見ると、そこには綺麗な山と空があって、自分の気持ちをどうしたらいいかわからなくなったんですけどね」
観光ガイドブックに書かれていないような旅の話しを聞くのは楽しい。