* イギリスのドラマ “Vanity Fair”
英国文学の名作「虚栄の市」をドラマ化。19世紀初頭のロンドンで、貧しい孤児の身から上流社会を目指すベッキーと、裕福な家庭に育った心優しいアミーリアの、対照的な二人の女性の人生を描く。
誰もいない暗闇に、木製の馬の顔がひとつずつ映し出される。真正面から見る顔は怖いようで、どこか悲しいようにも見える。シルクハットを被った大道芸人がパチンと指を鳴らすと、メリーゴーランドに照明がつき、何頭もの馬が上下にゆっくり動き回り出す。ひとり、ふたりとドラマの主要人物たちがどんどん馬に乗り現れる。
メリーゴーランドのまわりに大勢の人が集まって来る。火の棒を振り回す大道芸人たち。
輝く電飾の下で欲望や野心が渦巻く。ぐるぐる回るメリーゴーランドの天井屋根。
そして、ドラマが始まる。
* 映画 “Past Lives”(再会)
24年ぶりに会った主人公ふたりが少ない言葉と時々生まれる無言の中に相手の気持ちと自分の気持ちを推し量るような束の間の時間。
彼らの後ろでは大きくて美しいメリーゴーランドが回っている。
* 映画「長いお別れ」
ゆっくり記憶を失っていく父との、お別れまでの7年間の物語。
「いろんなことが遠くなる」という父が、ある日、知らない女の子と遊園地のメリーゴーランドに乗っている。それを見た妻は、昔のことを想い出す。遊園地で娘たちと遊んでいると「雨が降りそうだから」と夫が迎えに来た日のことを。
メリーゴーランドは美しく、楽しく、心躍るが、どこか物悲しいと感じる。
流れる音楽もノスタルジックなものが多いせいかも知れない。
私はメリーゴランドに乗った記憶がない。
NYのセントラパークにあるメリーゴーランドの歴史は古く、修理や点検を繰り返して長い間稼働している貴重なもの。ブライアントパークにも小さなメリーゴーランドがある。
いずれも、通る度に気になり立ち止まる。子供たちが乗っているのをまわりで親が見守っている姿を見て、本当は乗ってみたいのだけど「それは子供が乗るもの」と考えてしまう。
私の場合「もう乗れない」と思うから、余計に物悲しく感じるのかも知れない。