映画 “New York I Love You” (2009 フランス・アメリカ合作)
11人の監督がさまざまな愛の形を描いたオムニバス映画。
その中のひとつ、シェカール・カプール監督作 “元歌手とホテルマン”
枯れ木の季節、NYのセントラルパークに近い思い出のホテルで最後の時を過ごそうとやってきたオペラ歌手のイザベラ。
腰に障害のあるホテルの従業員・ジェイコブが部屋へ案内する。
部屋を見渡し、何かが足りないと思うイザベラ。「ここには花がないわ。ヴァイオレットが大好きなの」「買ってくる必要はないわ、もしあれば・・・」
部屋を出て行ったジェイコブはヴァイオレットの小さなブーケを手にして戻って来る。
「どうやったの?」「ロビーにありました、あなたが注文したのではないですか?」
「いいえ・・・」「あなたはラッキーですね。ヴァイオレットがあなたを待っていました、他に何かご用はありますか?」「何もありません」
ひとりになったイザベルは部屋のバルコニーの大きな窓を開ける。ベッドの上に一通の手紙を置き、白いドレスに着替え両手でブーケを持ち、命を絶つ決心をした自分の全身を鏡に映す。
その時、ジェイコブがドアをノックし、シャンパンを持って現れた。予想外のことにイザベラは戸惑うが彼にも一緒にシャンパンを飲むように求め、ふたりでベッドに腰をかけて乾杯する。
「私の父がこのホテルのマネージャーをしておりますが、あなたが戻ってきてくれたことをとても喜んでいます。彼はあなたの大ファンです。パリであなたの歌を何度も聞いたそうです」「まだ歌っているのですか」
” Never ” イザベラは優しくほほえみながら首をふる。
開いた窓から冷たい風が吹き白いカーテンが大きく舞い上がる。
ジェイコブは窓を閉めようとして、バルコニーから落ちてしまう。驚き、窓にかけより下を見ると地面に倒れ伏したジェイコブの姿が見える。ショックで呆然とするイザベラ。
場面が変わり、バルコニーの白いカーテンの奥からベテランのホテルマンが現れる。「マダム、私には何も見えませんが」と言う。
ジェイコブという男はこのホテルに存在しなかったのである。イザベラは言葉を失う。いったい、あの足をひきずっていた若いホテルマン、一緒にシャンパンを飲んだ彼は誰だったのか。
この世には、人を他の選択に導くために起こる”奇妙なこと”があるのかも知れない、と思った12分弱の物語。