晴天で突風が吹いた日、これは良く乾くだろうと思い洗濯物をベランダに干した。怖いくらい風でばためいたが、しっかり固定したので大丈夫、と思っていた。

 

近所で買い物をして帰ってくると、ベランダに干してあったTシャツが1枚なくなっている。7階の部屋から1階に降りて隣のビルとの間や植え込みを探したがどこにも見当たらない。

 

Tシャツは5〜6年程前に8ドルくらいで買ったもので、今では朝のストレッチ用になっている。まだ着られるがあっさりと諦めがつく。

 

心配なのは、誰かにご迷惑がかかっていないだろうかということ。もし、どこかの部屋のベランダに飛んでしまったのなら申し訳ない。たぶん、もう乾いていたとは思うけど、まるっきり他人の洗濯ものには触れたくないはずである。発見された方にはご面倒でもそのまま処分して頂きたいと、心の中で詫びている。

 

雨上がりの朝、NYのアパートのベランダに濡れたTシャツが舞い込んでいたことがある。NYは外に洗濯物を干す人はいない。カラフルでものすごく派手なTシャツである。雨でびっしょり濡れて重たくなったそれをビニール袋に入れて1階の郵便受け室のカウンターに置いた。「落とし物」とメモを貼って。

 

数日後、ドンドンとドアをノックする音。1階の入口でブザーも押さずに直接ドアを叩く人なんてまずいない。誰かと尋ねると、私の住む5階から3〜4階上に住む隣人だという。

 

「Tシャツがベランダに落ちて来なかったか」と焦った様子で聞くラテン系の若い男性。Tシャツを洗ってベランダの柵に干していたらいつの間にかなくなっていたと言う。

 

ありのままの経緯を話した。1階に置いたビニール袋は後日なくなっていたから、既に落とし主が持って行ったものだと思っていたが、管理人か誰かが捨てたのだろうか。彼は「落ちた」可能性のある部屋を一部屋ずつに聞いてまわったらしい。当日であれば間に合ったのかも知れないが、Tシャツがなくなったことに気づくのが遅かった。

 

探し回るほどのTシャツ、大切なものだったのだろうと思うと、私の中に罪悪感が生まれた。

 

朝のニュースが耳に残る。

 

「今日は洗濯物は良く乾きますが、風が強いので充分にお気をつけ下さい」

 

聞いていたのに・・・情けない話しである。