* 買い物帰りの路地、少し前方に三毛猫が歩いている。飼い主が首輪をつけて散歩中の様子である。
「可愛いなあ」と思って少し歩調を早めて近づくと、猫が振り返り、私に驚き飛び跳ねた。
それにつられて飼い主の男性も驚き振り返る。
「ごめんなさい!驚かせてしまったようです」というと、「うちのは弱虫なんですよ」と笑う。
この三毛猫、見かけたのはこれで3度目であるがいつも隠れてしまう。
毛並みがとても綺麗で飼い主さんから大切にされているのがよくわかる。
何度遭遇しても慣れてくれそうにないのが、ちょっと淋しい。
* 友人が保護猫を飼っていた。名前はジャック。長いあいだ外敵と闘ってきたのだなあという顔を
している。なかなか受け入れ先が見つからず、それを不憫に思った友人が引き取ったのだ。
ある日、食事に招待されて友人の自宅を夫とふたりで訪れた。ジャックは姿を隠して出て来ない。
聞き慣れない声に用心しているのだ。食事が終わる頃、やっとジャックは姿を現した。「こんにちは、ジャック!」と声をかけると睨んでくる。それ以上かまうと引っ掻かれそうなので知らない素振りをする。夫が愛想を振りまいて触った途端に引っ掻かれた。「やっぱりなあ。やめとけばいいのに、余計なことを」と思う。
ジャックには時間が必要、人間を信頼できるまでは相当な時間が必要なのだ。
* 顧客のオフィスへ1〜2週間に一度出向して仕事をしていたことがある。
そこには大きなチャウチャウ犬がいた。とても物静かで声を出して吠えたのをほとんど聞いたことがない。朝出勤してすぐに、そのチャウチャウ犬と私には儀式がある。飼い主が横につきそい、私がチャウチャウ犬の身体を優しく触って「ハーイ、私はあなたのお友達よ」とハグをするのだ。
「これで安心」と飼い主は言う。「うちの子はとても大人しいけど動物は動物。いつ、どんなことで噛みつくかも知れない。こうやって安心させれば大丈夫だと思う」
オフィスを訪れる度、必ずその儀式は行われた。そのおかげで、時には私の足元でいびきをかいて眠ってくれる。可愛くてしょうがない。
この愛らしいチャウチャウ犬を、オフィスを訪れた人は皆「可愛い!」「触っていい?」と飼い主に尋ねる。彼女は決まって「気をつけてね、動物だから」と忠告するのである。