『珈琲いかがでしょう』
移動珈琲屋の店主・青山が一杯ごとに豆を挽き、お客様に合った珈琲を丁寧に淹れる。
その一杯の珈琲は人々の心をほぐす不思議なチカラがある。
1話2本立てで、1回の放送で2つのエピソードが紹介されるオムニバス構成。各エピソードの前半を
1杯目、後半を2杯目と称す。
第2話 2杯目『だめになった珈琲』
美術の専門学校を卒業した画家志望の若い女性・礼(れい)。
「君はもっと視野を広げた方が作品がよくなるかもね。絵でも本でも映画でも音楽でも良作にたくさん触れたほうがいいよ、若い頃はスポンジみたいに吸収できるから」
と、ギャラリーのオーナーに言われた彼女は、頻繁に美術館へ通い、たくさんの映画を観て、たくさんの本を読んだ。
しかし、まわりの友人・知人たちが小さな個展を開催したり、雑誌に取り上げられていっても、礼にはそんなチャンスは巡って来ない。
「頭のいい子はちゃんと知っているんだよね。どんなに吸収してもうまいこと外に絞り出さないと
何の意味もないってことを」
「私はジャブジャブのスポンジ」
大したことないと思っていた人たちが成功していくのを妬んだ。人を否定してばかりしていた。
妬みやそねみが転がっているサイトに書き込みをした。そこは気持ちが良かった。
「私には“あれ”がなかったんだよね。選ばれしものだけがもつ”あれ“が」
それを自覚したと同時に、入学時に奮発して購入したエスプレッソマシーンが変な音を立ててきしむ
ようになった。そして、間もなく動かなくなった。
「吐き出したはずの誹謗中傷は自分の中に沈殿していて全部跳ね返ってきた。そういうのを紛らわし
たくてゴミみたいなやつらとつるんで楽な方に流されて、気づけば・・・」
青山に「このマシーンは動きますよ。ちゃんと掃除をすれば」と言われ、礼は「動いて」と念じながらマシーンの部品を綺麗に掃除する。
「私の中のドロドロもこんなふうに吐き出せたらいいのに」
何にもしないで人のことを笑っているのは楽だったけど、本当は毎日みじめでたまらなかった。
「だらしなくしがみついているのはみっともないのをわかっているけど、私だって本当はそっち側が
いいよ!」
再び動き出したマシーンで淹れたエスプレッソ。苦い、けど美味しい。昔は苦いだけだったのに。
青山が礼に語りかける。
「たとえ“あれ”を持っていなかったとしても、しがみついて続けられる人はそれに匹敵する何かを
得られるのではないでしょうか。苦みを知ったからこそ描けるものがあるのでは」
礼は「もう一回頑張ってみてもいいですか」と一人つぶやき、奥にしまい込んでいた絵筆を取り出す。
ネット配信されているドラマ(テレ東公式ドラマチャンネル期限限定放送)
ものすごく解りやすくシンプルに描かれ、心の中のどこかの部分が綺麗に整理整頓されるような
ドラマだった。