元映画監督のミゲル。22年前、自身が監督をつとめる映画「別れの眼差し」の撮影中に親友であり

主演男優でもあるフリオが失踪した。その謎を追うTV番組に出演することに。

借りている倉庫を訪れると、そこには映画に関するいろいろな物が保管されている。それらに手を触れると、様々な記憶が蘇ってくる。

 

主役俳優であったフリオ失踪後、ミゲルは映画監督の仕事を退いた。現在は本を書いたり翻訳の仕事をしながら、海辺にあるトレーラーハウスに住んでいる。同じ敷地内には年齢は違えども心地よい関係の数人の住民がいて、ゆったりとお酒を飲み、ギターを弾いて歌を唄い、のどかな時間を過ごす。

 

ミゲルのさりげない生活がゆっくりと流れるように描かれている。

その自然な姿や表情の中に深みが感じられ、人生の長い秋の終盤にさしかかったその男性がしみじみ

魅力的に映る。雨の音、波の音、風の音とそれらの匂いが身体の中に入り込んでくるようである。

 

ゆったりした時間の流れが、私にはリアルに感じた。

 

驚き、怒り、悲しみ、苦しみ、絶望、自分の身に起きたことをすべて受け入れて淡々と生きているように見えるミゲルに、感情が高ぶる出来事が起きる。

 

TV番組を見た人から「フリオによく似た男が海辺の施設にいる」という連絡を受け、ミゲルは現場へ

向かう。フリオではないかと思われる男性はそこに入所しているのでなく、ある日そこに流れ着き、

そのまま施設の作業員として働いている。その男には自分の過去の記憶がないらしい。

 

ミゲルは早速、それがフリオかどうか確かめに行く。

始めは遠くから、その後はテーブルを挟んで食事をしながら盗み見る。

それは明らかにフリオであるが、目と目が合ってもフリオはミゲルだと気づいた様子はない。

 

その男がフリオだと示すものは1枚の写真。映画の中で使われた少女の写真である。

1冊の本の間に挟んで大切に持っている。

 

既に閉館し朽ち果てそうな映画館で、22年前の未完成の映画を上映する。

その映像を見れば、フリオは何かを思い出すかも知れない。

 

大きなスクリーンに映し出される映像がフリオの感情を少しずつ刺激し、記憶に結びつかせようとしているかのように見える。ずっと大切に持っていた1枚の写真の中にいる少女がスクリーンに映る。

 

「瞳をとじて、そして、瞼の裏に何が見えますか、どんな感情がわいてきますか」

 と、問いかけているようである。