創業70周年を迎える山の上ホテルが来月13日から建物の老朽化への対応を検討するために休館するとのこと。
昨年の秋、休館が発表されてから宿泊の予約が困難になっているようである。
宿泊したことも、食事をしに行ったこともないホテルだけれども、文豪たちが常宿にしていたことで
有名なのは知っていた。宿泊は無理でもカフェのプリン・ア・ラ・モードを食べてみたいと思ったが、現在はそれもなかなか難しい状態らしい。
作家の林真理子さんがコピーライターの世界で名前が知れ渡った頃、初めて本を書く時に“缶詰”になったホテルだったと2月号の月間・文藝春秋のエッセーで読んだ。
「ルンルンを買っておうちに帰ろう」(1982年)は山の上ホテルで書かれた。
その本はベストセラーになり、それ以降、山の上ホテルは林さんの常宿となったとのこと。
ホテルのスタッフの方々に「林さん、おかえりなさい」「林さん、いってらっしゃい」と言われて
すっかり気をよくしたと、書かれている。
ある日、ホテルの1階にいると、フロントで「池波正太郎先生はお部屋におられますか」と編集者らしき男性の声がした。その彼が近くにいた林さんをギロリと睨らんだらしい。
「ルンルンで売れたかも知れないが、お前ごときが泊まれるところではない」と言っているように
思え、その後、林さんは常宿を変えたとのこと。
日大の理事長となった今は時々ランチを食べに訪れるそうである。
これを読んで思い浮かんだのは、NYのマンハッタン・アッパーイーストにあったElaine's(1963~2011)というレストランでのことである。
ウディ・アレン監督の映画にも何回か登場したレストランであり、作家、俳優、映画、放送関係の人達が多く訪れる場所であった。
このレストランに一度だけ食事に行ったことがある。
私達のテーブルの近くにはウディ・アレンと彼の妻スン=イー・プレヴィン、大手テレビ局のアンカーたちが同じテーブルを囲んでいた。アンカーたちはTVに映っている時と変わらないような派手なスーツ姿で座っていた。そのテーブルは独特の華やかなオーラで包まれていたが、ウディ・アレンとスン=
イー・プレヴィンは服装も佇まいもとても謙虚に見えた。
私がレストルームに立った時、そのテーブルにいた毎日のようにTVで見るアンカーの男性のひとりが
怪訝そうな顔で私に視線を向けた。目と目が合った。
特に意味はなかったのかも知れないが、決して愉快な気持ちになるような視線ではなかった。
もしかしたら、あなたが来るべき場所ではない、とのことだったのだろうか。
店の雰囲気、料理、サービスも素晴らしく、Elaine'sでの食事は良い思い出である。
たとえ、あまり心地よくない視線を一瞬感じたとしても。