年の暮れ、ランチの約束をしている友人に浅草・亀十のどらやきを頼まれた。

「どうしても」というわけではない。「もしついでがあれば」と遠慮がちであった。

 

日頃からお世話になっている友人である。「亀十、お任せ下さい!」と返信した。

 

いつも信じられないくらい人が並んでいる老舗である。

それでも1時間も待てば買えるだろうと約束の日の当日、開店30分前の9時半に到着。

 

前日に買おうという考えも浮かんだのだが、亀十のどらやきの賞味期限は3日である。

当日に買う方が良いと思ったのだ。

 

想像を遥かに超える列の長さに驚愕した。

最後尾につきすぐあとにやってきた年配のおじさんに「どれくらい待つのでしょうね」と言うと

「1時間くらいじゃないかな。」との軽い返答。

それなら最初から覚悟していたこと、その為に文庫本を持ってきたのである。

 

一人の男性が驚愕の長い列を見て、「どらやきにこんだけ並べないな、俺は」と通り過ぎた。

 

私だってそうである。自分の為には並ばない。友達に喜んでもらおうと並んでいるのである。

自分の為だったら30分でさえも並ばない。

 

幸いにもそれほど寒くない日で外での読書も苦にならない。

開店まで30分待ち、それから1時間が過ぎた。思ったほど前に進んでいない。約束の午後1時に間に合わなかったらどうしようと不安がよぎる。待ち合わせの場所までは電車と徒歩で45分はかかる。

遅くとも、12時過ぎには地下鉄に乗らなくてはならない。

 

11時を少し過ぎたところで列を整備している店員さんに「あとどれくらいかかるでしょうか」と尋ねた。「そうですね、その場所だとあと1時間半から2時間かかります。最後尾で3時間くらいです」との返答。

 

諦めるしかなかった。

急いで他の店へ走り、どらやきの代わりにその店で評判の塩豆大福を買った。

 

1時間半以上並んでつくづく思った。

年末の寒い中、こんなに長い列に並んでいるのは自分の為ではない。年末年始のご挨拶用、他の方々に差し上げるために並んでいる人が多いのではないだろうか。

 

もし、年末年始に浅草・亀十のどらやきを誰かに頂くことがあったなら、それはもう“お値段以上”の

ものであり、喜んでもらいたいという相手のお気持ちを有り難く受け取らせて頂こうと思う。

 

友人は塩豆大福をとても喜んでくれた。「今度は絶対に亀十のどらやき持ってくるね」と別れたから、また友と会う楽しみができた。