故郷の従兄弟からりんごが届いた。

箱を開けると赤い富士と黄緑色の王林、ぷ〜んとりんごの香りが漂う。

子供の頃、りんごは常に家にあった。りんごの香りは実家の廊下の匂いでもある。

 

赤いりんごはお尻まで赤いものが美味しいと聞いたことがある。

全部のお尻の色を確認して赤い富士と王林の美味しそうなところを選び、アパートの管理人さんに

持って行く。

 

10年も前のNYでのこと。スーパーの果物のコーナーでりんごを選んでいる時に私は咳き込んだ。

なかなか止まらなくて苦しんでいたら、近くにいた70代くらいの女性が「あなた、このりんごを

たくさん買って行ってジャムをつくるといいわ。咳に良いのよ」と心配そうに話かけてくれた。

 

さっそくアパートへ戻り、いちばん簡単な方法でジャムをつくってみた。

用意するものは、りんご、レモン、はちみつ、シナモンだけ。どれも家にあるもの。我が家に砂糖は

常備していない。りんごがしんなり、色が変わり、とろりとなるまで気長に煮るだけ。

 

あたたかい出来立てのジャムは美味しい。少し酸っぱくて、それがなんだか身体に良いように感じる。

 

トーストしたパンにのせて食べると、ものすごく美味しい!

 

それ以来、りんごの季節になるとジャムをつくっていた。

材料も作り方も簡単なのに、私にとっては贅沢な時間、贅沢な味である。

 

りんごを煮込んでいる時、あの女性の顔が浮かぶ。感謝である。

見ず知らずの親切な人にかけてもらった言葉で咳が静まった、ような気がする。

 

帰国してからは一度もジャムを作っていない。

久々に作ってみようかと思う。