日曜日、早朝の上野発―青森行きの新幹線はほぼ満席。

私は二人席の通路側であるが、仙台で大勢の人が下車し窓側に座っていた隣の男性も降りた。

 

空いた隣の席を使って、持ってきた厚手のダウンコートを大きなバッグから取り出しはずしてあった

帽子をつけて、手袋を左右のポケットにひとつずつ入れる。自宅から着てきた薄手のコートをバッグにしまい、スニーカーからブーツに履き替える。準備万端である。

 

「盛岡に到着します」のアナウンスでふと窓の外を見ると雪がシンシンと降っている。

知らぬまに空席が目立ち、私の乗っていた車両には数えるほどの人しかいない。

 

ところが、八戸から乗って来た乗客が私の席の隣だとチケットを見せる。

「えっ、そうですか、ちょっと待って下さい」と通路側に座っていた私は慌てて荷物を移動して席を立とうとした時、その男性は「こんなに席が空いているんだから、適当にその辺に座ります。大丈夫です、気にしないで下さい」と言って後方の席に座った。

 

「こんなことってあるんですね、こんなに席が空いているのに」とお互いに苦笑いである。

 

間もなく青森駅に到着し、改札を出て手袋をしようとポケットに手を入れると、右側のポケットには

何も入っていない。帽子をつけたり、荷物を入れ替えたりしている間に床に落としてしまったのだろうか。

 

ホテルにチェックインしてから駅の忘れ物の窓口に電話をする。

乗車した新幹線の到着時刻、座席を伝える。黒い皮の手袋、手首のところにファーがついている、右手を紛失、21センチ。質問に答え、情報をたくさん伝えると、紛失した手袋が見つかるような気がするから不思議である。

 

しかし、手袋の落とし物は届いていないという。

 

私は手袋をよく紛失する。今までにいくつ失くしただろうか。

失くした時のシーンをいくつかはっきりと覚えている。バスの中で膝の上に乗せて居眠り、目的地に着き席を立った時にするりと落ちたに違いない。手で押さえていたつもりが、つかの間の眠りで忘れてしまった。雪道をバスを追いかけたが間に合わず、赤い皮のお気に入りだった。母の見舞いの帰り道。

 

他の物は失くさない(気づいていないだけかも)。

だから、いつも安い手袋を買う。なくしても惜しくないように。

 

けれども、今回失くした手袋は友人がプレゼントしてくれた高価なもの。

もったいなくてあまり使っていなかったのであるが、失くした。

がっくりである。

 

左手だけに手袋をして、これから大好きな叔母に最後のお別れの挨拶をしに行く。