日暮里にある谷中銀座を通り抜けて根津方面を散歩する。
閑静な住宅街を観光客風の人たちがスマホを手に持ち歩く姿は、ちょっと旅に出たような気持ちに
なる。このあたりは谷中霊園をはじめお寺や神社がたくさんある。ひとつひとつ巡りたいところであるが、思うようにたどり着けない。私はスマホの地図を有効活用出来ない人間である。
右手は文京区、左手は台東区、狭い道を歩いていると小さな本屋さんに行き当たった。
外にセール本の箱を出してある。覚えのあるタイトルが並んでいる。
お店の中は狭いが、ジミー・ヘンドリックスから詩人・鈴木みすずまで、ジャンルが広い。
「文藝別冊 向田邦子特別集」
「ことばの花束 金子みすゞのこころ」
この2冊を購入し、お店の方に上野方面はどちらか尋ねた。
「歩かれるんですか?」と驚かれた。徒歩だと30分ほどかかるらしい。
歩くのが好きである。
秋の晴れた日、夏の猛暑で歩けなかった分を取り戻そうと歩いている。
根津の大通りを上野方面へ黙々と歩いている途中に地下鉄の駅が目に入った。
1分ほど迷ったが、乗った。早く本を読みたい気分だったのである。
ページをめくると“本の匂い”がする。嫌な匂いではない。
どこか懐かしい、実家のずっと使われていない自分の部屋のような匂いである。
シンプルな書店の袋には“TAKIBI Reading & Thinking” と書かれている。
方向音痴である私は、地図を見て行こうと思っても辿り着けないかも知れない本屋さん。
TAKIBIさんのホームページを読ませて頂いた。
「本好きや書店をやってみたい人たちが有料で棚を借り、読んでほしい本を売っている。
シェア型の共同書店です」
“棚貸し料と、本が売れた時の手数料が店の収入になる。棚の賃料は大きさによって異なり、月額三千円から一万円。著名な経営者や編集者、地元住民ら約六十人が棚主になっている。小学二年の男の子と母親が借り、子ども向けの本を売る棚もある”
棚ごとにオーナーさんのテイストが現れている、と感じた。
一昨年、「棚貸し書店」をテレビで知り興味があった。その時に紹介されていた神田へ行ってみようと思っていたのだが、今ではたくさんの街にあるとのこと。
迷子になって見つけた本屋さん。
今日の嬉しい出来事である。