まだ、アメリカにVISAなしで半年間滞在が可能だった時代のこと。

 

ある男性が仕事仲間数人と渡米することになった。

彼らは当時としては特殊な職業であったが、その勉強の為に念入りに計画をした。

現地に住む人の推薦状があれば尚入国しやすいのではないかと考え、その男性はいろいろな人の協力と好意によって念願の推薦状を手にした。推薦状を持っていたのは彼だけである。

 

準備を重ね、アメリカでの生活に期待を膨らませて成田から旅立った。

アメリカに到着、入国審査の窓口で彼は推薦状を見せた。

いくつかの質問があり、彼は3週間しか滞在許可をもらえなかった。

推薦状を持っていなかった他の人たちは通常の6ヶ月間のスタンプを押された。

 

「何故、自分だけ。推薦状まで書いてもらったのに」

悔しい思いをしながら3週間が過ぎ、彼は日本へ戻った。

 

日本へ戻ってすぐに彼は体の異変を感じて病院へ行った。

そして緊急入院となった。

 

彼は「あの時に3週間しか滞在許可がもらえなくて良かった」と胸をなでおろしたという。

 

私がNYに住み始めて1年が過ぎた頃、働いていたオフィスが突然クローズした。

収入の見通しがなくなった私は家賃の安いアパートに引っ越しをしてなんとか乗り切ろうと考えた。

それを長年NYに住む先輩に相談した。

 

「安いアパートに住んで生活のレベルを下げるのは簡単。なんとかそれで暮らしていけるものだよ。

でも、いったん下げたらもとの生活にはなかなか戻れないぞ。よっぽどの精神力がないと難しい、

一生そのままだ。」

 

私はいったん日本へ帰国することにした。

 

突然帰国したにも関わらず、住む場所も仕事もトントン拍子に決まった。

まるで用意されていたかのようであり、パズルのピースが簡単にはまっていくような感じでもあった。また人生でとても大切な出会いがあったのもこの時である。

 

「正しい方向へ向かっていれば物事は順調に進み、間違った方向へ向かっていれば繰り返し問題が

 起こる」と、何かの本で読んだことがある。

 

粘り強く時間をかけて道を切り開く方法もある。先輩のアドバイスのように、それには強い精神力が

必要だと思う。

 

私の場合、あの時に日本へ帰国したことは正解だったと思っている。

 

その数年後にまたNYへ戻るのだけれども、それが良かったのかどうかはまだわからない。