友人が福島の奥会津で宿泊所を経営している。

会津若松の駅から車で50分ほどの場所にある。

 

数年前の10月下旬、ちょうど紅葉の時期だった。青森から新幹線と在来線を乗り継いで友を訪ねた。新青森駅から仙台まで新幹線(はやぶさ)、仙台から郡山まで新幹線(やまびこ)、郡山から会津若松までは在来線、3度の乗り換え時間も含め5時間ちょっと。新青森駅から東京駅まで新幹線で3時間かからないことを考えると、けっこう遠い。青森から会津若松までの距離を確かめるような旅である。

 

早朝の新幹線は想像よりも混んでおり、車内で食べようと青森駅で買った軽食を食べそこね、郡山から会津若松へ向う列車の中で食べようと空腹を我慢した。

 

ところが、郡山から乗った電車はローカルの普通列車で、指定席はなく、私の横にも前にも乗客が立っている状態。食事ができるような様子ではなかったが、朝からほとんど何も食べていない私の空腹度は限界で、バッグの中からこっそりクッキーを取り出し、まわりに気づかれぬように頬張った。

斜めお向かいに座っている女性と目が合ってしまい、口を小さくもぐもぐさせながら愛想笑いをする。

 

やっと到着した会津若松。本来ならそこからまた電車を乗り換え1時間半かけて村の小さな駅まで行くのだが、友人が車で出迎えてくれた。

 

暗い砂利道を進んで行き小さな山村の中に一棟貸しの建物がある。

静寂、家々からもれる灯りも少ない。

 

木造の建物は温かみを感じる。部屋の中には薪ストーブがあり、柔らかい木の香りが漂う桐のお風呂も

ある。それだけで贅沢な気分になれる。

 

翌日は、赤く染まる紅葉、奇跡の絶景といわれる霧幻峡の渡し(只見川)。

 

源泉かけ流しの名湯“早戸温泉つるの湯”、川を見渡せる小さな露天風呂に浸かっていると、

 

「どこから来たの。どこに泊まっているの?」と、地元の方が声をかけて下さる。

「楽しんで行きなさいね」

 

村に知り合いが出来たようで心強くなる。これも嬉しい旅の思い出。

 

不便な山村に人は来てくれるだろうかと友は心配していたが、その後、宿泊客が途切れることはなく(コロナ禍を除いては)予約を取るのが難しいほど繁盛している。

 

この冬、わずかであるがやっと予約の取れる日を見つけた。

 

何度も電車を乗り換え、少しずつ距離を縮めていく感覚を楽しみながら友に会いに行く旅もなかなか

良いものである。