小学6年生の時、同級生のMちゃんの家へ遊びに行った。
Mちゃんの家は足袋屋を営んでおり、お父さんは寡黙な職人だった。
お店の玄関から入り、足袋を作っているお父さんの前を通って2階へあがる。
通りに面した明るい8畳間がMちゃんの部屋、反対側の陽の当たらない6畳間がお姉さんの部屋。
年の離れたお姉さんは大学1年生で関西に住んでいる、だからそういう部屋割になったのだと思う。
「いいもの見せてあげる」とMちゃんに言われ、お姉さんの部屋へ連れて行かれた。
「内緒だよ」と、声をひそめていうMちゃん。
お姉さんの机の引き出しを静かにあけて何冊ものノートの下になったところから一通の手紙を出した。縦長の白い封筒である。その中には白い便箋に書かれた綺麗な字。男性からお姉さんへ宛てた手紙だ。
「あの日の明石の夜は」で始まるラブレター。
Mちゃんはにやにや笑いながら「ねえ」と意味ありげにささやく。
手紙を全文読まなかたったのか、読んだけど忘れてしまったのか、覚えているのは「あの日の明石の
夜は」だけ。
秘密を抱えた日である。お姉さんの秘密を。
あの日以来、私の中の明石のイメージは「夜景の綺麗な街、恋人が一緒に過ごす街」となった。
職場の上司に小学生の女の子がいた。上司はシングルマザーである。
彼女が仕事で知り合ったフォトグラファーから贈られた写真集の中には男性同士が裸で抱き合う写真も掲載されていた。それを自宅へ持って帰ったが小学生の子供の目に触れてはならないと思い、自室の
ベッドの下に隠しておいたという。
ある日、家へ帰ると、娘がその写真集を見ている。「まずい!」と思ったらしいが、次に娘が言った
言葉に驚いたという。
「ママ、この写真、綺麗だね。でも、なんか悲しい」
小学6年生はまだまだ子供のようであるが、人の秘密を自分の秘密にしてしまったり、ベッドの下へもぐって見つけたものに心を動かしたりもするのである。
いずれも、昭和の時代であるが。