今回は小さな劇場だったこともあり、公開から約1ヶ月経つがほぼ満席。
ジェーン・バーキンは性別も年齢も関係なくたくさんの人から愛されたのだと実感する。
ドキュメンタリー。
ジェーンと2番目の娘、セルジュ・ゲンズブールとの子供であるシャルロット。
二人並ぶと、やはり母娘にしか見えない。外見が似ているとはあまり思わないのだが、ジェーンの視線やしぐさに“母”を感じる。
ジェーンは若い頃から不眠症で、18歳の頃から睡眠薬を使用していたという。
「でも、あなたを妊娠している時には使っていなかったわ」
物を捨てることが出来ないジェーンの自宅にはたくさんの使わない物で溢れている。
”秩序のない部屋”と呼ぶ。いつか使う、もしかしたらこの箱の中に大切な物が入っているかも知れないと思うと捨てることが出来ない。
中にいろいろな必需品が詰まったバッグ、彼女が持っていたバーキンを思い出す。
昔、ブランコがあったガーデンの一角。ブランコは取り払われ、跡形だけが残っている。
セルジュ・ゲンズブールとジェーンと子供たちが暮らした家。
シャルロットの意向で、セルジュが亡くなった日から30年以上そのままの状態で保存されている。
「あっ、私の香水、まだ香りがするかしら」ジェーンはたくさん並ぶ瓶の中からひとつを手に取る。
「缶詰が一つずつ爆発していくの」とシャルロット。冷蔵庫の中もキャビネットの中も当時のまま。
「ケイトがつけた傷があるの」と壁に手を当てて探すジェーン。
まだ幼い子供だった長女・ケイトに、セルジュが食べ方を注意したら怒って傷つけたのだという。
「ここはおとぎの国の宝箱」
2012年、ケイトが亡くなった。その頃からジェーンの体調はあまり良くない。
「亡くなった人のことを話すことが多くなる、生きている人のことよりも」
今でも、ケイトの姿が映っている映像を観ることは辛い。
「自分は良い母親ではなかった。友達みたいな関係だったけれども」と言うジェーンだが、
シャルロットへの母としての気遣いを強く感じる。
70歳をいくつか過ぎた彼女には深い皺が刻まれ、体型も変わり、手の甲にはシミが浮き出ている。
「背が少し低くなり、何を着ても今までとは違って見えるように感じる」と言う。
それは自然なことだし、それらのことを含めての“美しさ”がある。
圧倒的な存在感がある。
アイロンのかかっていないシャツにジーンズ、無造作な髪の毛、くちゃくちゃに笑う顔、
つぶやくような話し方。
若き日のジェーンも、76歳のジェーンも、私の中では永遠にそのままである。