もう少し早くアパートを出ていたら・・・と、後悔。

外出の途中で雨が降り出し「まあ、たいしたことないだろう」と

思っていたら雨脚はどんどん強くなった。

 

外出時にはいつも所持する日傘は雨傘と共用だから使える。

頭だけは濡れずにすんだが足元は地面で跳ね返す雨で大変なことになっている。

 

肩から掛けた荷物もびしょ濡れ。もう少し雨が弱くなるのを待とうかと思ったが、これだけ濡れたら

どれだけ濡れても同じである。

 

ジーンズの裾が濡れて重い。ああ、気持ち悪い。地面の砂や土を吸い込んでいるこのいや〜な気分、

前に経験したことがあるなあ。

 

そうだ、あの時だ。

 

NYでのこと。隣人がセントラルパークへ行こう、と言う。空は今にも雨が降り出しそうに曇っている。

 

「途中で雨が降り出すから止めといた方がいいんじゃない」というと、

「絶対降りません。傘いりませんよ。私、天気予報を確認しましたから。これから晴れます」と

隣人が言い切る。少し不安ではあったがふたりで公園へ向かった。

 

公園へ入り30分ほど歩いたところで、雨が降り出した。どしゃ降りである。

身体に音が響くほどの雷が鳴り続ける。文字通り、「ドッカン、ドッカン」である。私達は雨宿りの

つもりか、大きな木の下に身を隠した(つもり)。「雷って、木に落ちるんじゃなかった?」慌てて

木から離れる。

 

どうする?どうする?右往左往、もはや濡れ放題である。

 

しばらくすると雨脚は少しずつ弱くなり、青空が見え始めた。私達は酷い状態になっていた。

頭のてっぺんから足のつま先までびっしょりである。池にでも落ちたかのようである。

 

公園内はそれでも良い。私達と同じような人が何人かいたから。

問題は公園から出てアパートまでの道のり。

84丁目を、五番街、マディソン街、パーク街を通って帰るのである。

 

太陽が強く照りつける中、私達は濡れ鼠のような姿で家路についた。

 

「雨、降らないって言ったよね」

 

「はい、すみません。本当は天気予報で降るって言ったんです。でも、私、散歩に行きたかったから

 嘘ついたんです」

 

「まったく・・・」

 

何故か私は、上手な日本語を話すこの隣人を憎めない。最後まで嘘をつき通せないところだろうか。

 

アパートにつくなりバスルームへ直行し、その後、雨を含んでずっしり重くなった身につけていたものを洗濯したのである。

 

昨日の土砂降りで“憎めないヤツ”のことを思い出した。