「はじまりのうた」このタイトルを見た時には興味が湧かなかったのだが、番組案内の予告で舞台が
NYであることを知り、飛びついた。
イギリスからNYへやってきたシンガソングライターのグレタと、過去に音楽プロデューサーとして一世を風靡したが現在は落ちぶれて職を失った中年男性・ダンが出会い、音楽をつくりだしていく物語。
どん底まで落ちた中年男とボーイフレンドに裏切られた若い女性。
酔っ払って偶然に入ったバーで、グレタの弾き語りを聞いたダン。
ダンの頭の中ではグレタの歌に合わせて、ピアノ、ドラム、チェロ、ヴィオリンの音も奏でられ、
彼女の才能に惹きつけられる。
音楽、一人ずつ増えていく仲間、共同作業、クラブ、古いアパート、友達、10年前には危険だとされていた場所のファンシーなオフィス、タバコの煙、下町のやんちゃな子供達、セントラルパーク、夜のベンチ、昼のベンチで食べるアイスクリーム、バー、レコーディングスタジオ、地下鉄構内での演奏、アパートでのパーティ、ボロ車、ライブハウス、朝の街、昼の街、夜の街、すべてがNY。
グレタとイギリスから一緒にやってきた歌手のボーイフレンド、ダンと別れた妻、ダンと高校生の娘、グレタと男友達、それぞれの関係性がとても分かりやすい。
街中にある小さな公園のベンチに並んで座ってアイスクリームを食べているグレタ、ダン、そしてダンの10代の娘。話題がガールズ・トークになると父は無言でその場を離れる。こういう何気ないシーンも好きである。
音楽をつくる過程で人が集まり仲間になる。そして、曲が完成し、作品となる。
その曲をどのように世の中に発信するか。グレタはプロダクションと契約を交わすのではなく、彼女が考えた方法で自分の曲を世界へ発信する。
もの凄く感動したわけではなく、深い共感が湧いたわけでもない。でも、軽快な気持ちで楽しめたこの映画は、私にとっては素晴らしい映画のひとつになったのである。
主観と客観、(NY在住時の)現実と幻想のバランスがとれ、自分の中で調和されたような気がした。
「こんな事が起こり得るんだ」と、ご機嫌な体験であった。