JR新宿駅の山手線の車内で、座席に座っていた男性が布に包んでいた2本の包丁を落としたため、
パニック状態になった乗客らが逃げる際に転倒し、3人がけがをした。
包丁を持っていたのは飲食店に勤務する外国人の50代の男性で、「勤め先を辞めるから包丁を持ち帰ってきた」と話していたということ。この騒ぎで山手線は約20分間運転を見合わせた。
(ネット ニュースより)
このニュースを見て、昔の出来事を思い出した。
その日、仕事を終えて恵比寿から山手線に乗った。平日の午後8時前後だったと思うが、車内はわりと空いていた。私の斜め向かい側に酔っ払った60歳前後の男性がシートに寝転んでいた。電車がゴトンとなった時に、彼のカバンから2本の包丁が床に落ちた。包丁は何にも包まれておらずむきだしだった、家庭では見られないようなものである。刃が長い。
一瞬で恐怖感が沸き起こった。「どうしよう。隣の車両に移動しようか。でも、私が席を立ったことで男性が目を覚まし起き出して暴れたらどうしよう」と思うと、ぴくりとも動くことが出来なかった。
すると、少し離れたところに座っていた50歳前後の女性が、わざわざ男性の近くに座り直し、
「包丁を落としましたよ」と話しかけた。
私は固まった。
男性は酔った口調で何やらぶつぶつ言っている。女性は更に、「危ないからちゃんとしまって」と、
優しく諭すように言葉を続けた。
男性は酔った身体をなんとか起こして包丁を拾い上げ、カバンにしまい込んだ。何か言っているが、
私には聞き取れない。
「あ〜、飲んじゃったのね。気をつけないとね。」と、女性は受け答えをしていた。
その女性も私も次の駅で降りたが、おじさんはしっかりカバンを抱きしめてまだ寝ていたようである。
それにしても、なんと肝が据わった女性だろう。言葉に恐怖感も説教じみたところもない。
一部始終、ゆっくり、優しく諭すように話していた。
誰にでも出来ることではない。あれから数十年が経ち、私もずいぶん大人になったが、
それでもかなり難しいことである。出来ないと、思う。
どんな場所でも、そこにあるべきではない刃物を見たらパニックになるのは当然である。
走って逃げて、靴を片方なくした人もいたようだ。
今後、このようなことが起きませんようにと願う。